罪な僕は君と幸せになっていいだろうか

君の体温

数分間泣き続けて、ようやく落ち着いた。
誰にも話せなかったからかな。
いつのまにか、こんなにも自分の中に溜め込んでいたのだと驚いている。
まだ、こんな感情を持っていたことにも。
「鷹栖…落ち着いた?」
「うん。ごめんね、取り乱して」
「別にいいよ。それより、俺は鷹栖の新しいこと知れて嬉しいけどね」
そんなことを言ってくれるのは君くらいだと思う。
他の人だったら、きっと同情のようにはげますだけだ。
僕にはそんなものいらない。
「ありがと」
「…うん」
少し驚いてから、月海くんは笑って返事をした。
本当に変な人。
でも、それが心地いい。
「なあ鷹栖。質問してもいいか?」
「うん、いいよ」
「体売りしてるって噂あるらしいけど、それ嘘だろ?」
「…え?」
まさかそれを疑ってくるとは思わなかった。
僕も否定はしてこなかったわけだし、肯定と受け取るのが普通だろうに。
「鷹栖はそんなことするやつじゃないでしょ。俺はそう思った。まあ、実際のところは知らないけど」
「……その通りだよ。父親にやらされそうにはなったけど、それは嫌だって拒んだ。なんでかは知らないけど、幼馴染も僕に協力してくれてね」
いつも父の言いなりだった悠人が、初めて僕の意見を聞いてくれたんだっけ。
今考えてもあの時の行動はよく分からないな。
まあ、もとからよく分からない人だったと思うけど。
「こんな容姿だしね。そういう目で見られるのは慣れてるよ。まあ、でも…少し疲れるかな」
そう言ってふっと笑った僕。
それを見て、月海くんはまたあの表情をした。
「鷹栖はよく頑張ったと思うよ。だからさ、これからは1人で抱え込まないで俺を頼ってよ。ね?」
優しく触れてくれた彼の体温が、ひどく悲しく感じてしまった。
『僕は幸せになっていいわけがない』
ああ、そうだ。
僕が幸せになれるわけないじゃないか。
でも。
今はいいよね。
少しくらい彼の体温に触れても。
「うん。ありがとう」
僕は彼の手に触れて、ぎゅっとにぎり返した。
「っ…!ほんとにさぁ…」
「?」
「無意識なわけ?ほんと好き…」
ボソッと言うから、僕にはその言葉は届かなかった。
いや、届かない方がよかったかもね。
ーーーーー
その後月海くんが正門まで送ると言ってくれて、2人で廊下を歩いている。
今日は予定がないから遅くなっても大丈夫。
もう夕方になっていて、日も沈みそう。
「今日は…ありがとうね。嬉しかったよ」
「おう。これからはなんでも俺を頼れよ。絶対鷹栖の味方になるから」
「…うん」
そう言ってくれる彼に、僕の心はあたたかくなった。
「蒼唯」
ふと誰かに呼ばれて、僕は足を止める。
それと同じように月海くんも足を止めた。
「2人でなにしてたの?」
振り返るとそこには、案の定琉偉がいた。
「生徒会の仕事だよ。たまたま彼に会って、少し手伝ってもらってたんだ」
僕がそう言うと琉偉は疑うような目で僕を見てきた。
それから、耳元でコソッと言われた。
「まさかとは思うけど、その子に何か話したりしてないよね?」
「うん。何も言ってないよ」
息を吐くように僕は嘘をついた。
琉偉は僕の事情を知っている。
だから、僕を心配そてくれているのだ。
「そっか。まあ、何かあったら相談してね?」
そう言って琉偉は去っていった。
その後ろ姿を月海くんはじっと見ていた。
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