【完結】春の庭~替え玉少女はお飾りの妻になり利用される~

03 子どもの私と、母の憎しみ

「お前さえいなければ!」

 酔っぱらった母はよく私を殴った。
 いつからか、記憶がないくらい小さな頃から……
 母は貴族令嬢だったらしい。

「お前を妊娠しなければ、フレデリック様のお側でいられたのに! ずーっと私を愛して下さったのに!」

 フレデリック様というのが私の父らしい。

 だが、そのフレデリック様にはすでに奥さんがいて、とても偉い人だったそうで……その奥さんの勘気に触れ、母は身ひとつで平民に落とされたらしい。

 そんな一銭も金を持たない、お腹の大きな母を親切にも生活をみてくれた男がいたのだが、私を産み落としたとたんに豹変、今までの生活費は借金だから働いて返せとばかりに、この娼婦街の長屋に放り込み、客を取らせるようになった。

 避妊に失敗した愚かな娼婦とされた私たち親子は、この娼婦街で孤立、誰も助けてくれる人なんていない。
 しだいに母は酒と薬におぼれ、その容姿も今や見る影もない。

「お前のせいなのよ! あやまりなさい!」

 背中を蹴られ、ひざまずかされ、頭を床に抑え込まされる。
 勢いよく床に叩きつけられたので、鼻血が出てしまった。

「あやまりなさい!」

 声を出そうとするが、声が出ない。


 ごめんなさい。
 ごめんなさい。
 生まれてごめんなさい。


 母が私の顔をあげさせ、頬をきつくつねる。
 鼻血がだらだらと流れる。

「何よこのきめ細やかな白い肌! ピンク色の唇、艶やかな銀髪……全部私のものだったのよ! お前が私から盗んだんだ! 返せ! 返せぇ~!」

 母が私の顔を殴りつける。
 母は私の顔をいつも一番に痛めつける。

「お前の美貌が憎い! 憎い! お前なんて死んでしまえ!」


 薬でやせこけた母は体力がない、次第に殴る力は弱くなり、ふらふらとベッドに倒れこみ、やがて寝息が聞こえてくる。

 ようやく今日が終わった。
 寝る前に母に殴られる……それが一日の終了の合図。


 井戸に行き、血まみれの顔を洗ってると、隣の家の娼婦が顔を出してきた。

「あんたさ。さっさとここを出ていきなよ」
 そう言って家にひっこんでいった。




 朝になると母は、昨夜のことを全て忘れている。
 これもいつものこと。

「どうしたの? オリー! こんなに顔を腫らして! 誰にやられたの!」

 やせ細ったその腕で、ぎゅっと抱きしめられる。

「ごめんなさいね。こんなところで暮らしているからよね。もう少しだけ我慢して! もうすぐフレデリック様が、迎えに来て下さるから。もう少しの辛抱だから」

 昔はこの言葉を信じていた。
 私が想像の翼を持っているなら、母は夢想の翼を持っている。
 やっぱり親子なんだろうと思い、悲しくなった。

 どちらの翼も現実では何もしてくれない。
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