【完結】春の庭~替え玉少女はお飾りの妻になり利用される~
34 ハワード子爵令息、クリスの過去①
私の名はクリス・ハワード。
ハワード子爵家の長男で後継者だ。
幼少から天才児と言われた私は、優れた記憶力と絶対音感を持っており、学院に通えば常に成績は1位、バイオリンを始めれば稀有な才能だと絶賛されていた。
一度、目にすれば全て記憶できた私にとって、学院1位なんて息をするように簡単なことで、逆に苦労している同級生が不思議でたまらなかった。だから学院の勉強は退屈で仕方なく、いつしか私の好奇心はバイオリンへと向かっていた。
そうしてのめり込んで練習していると、10歳になる頃には私の腕前は王家にも知られ、コンサートも何回か開くようにもなっていた。
いずれは子爵当主になる予定だが、それまでは音楽家として大成することを目標とし、日々修練していた。
しかし、そんな順風満帆な私の子ども時代は、ある日突然終わりを告げた。
我がハワード子爵家の主家であるキャンベル公爵家の後継者、ハリー様の9歳の誕生日パーティーに呼ばれたその日に。
当時キャンベル公爵家では、家臣格である男爵家、子爵家の子どもたちをハリー様の側近候補として、度々機会を設けて集めていた。
私は家臣格ではあるが、キャンベル公爵家の分家筋であるハワード子爵家の後継者であったため、側近にはなれないのでここにはあまり来る機会がなく、この誕生会で5年ぶりにハリー様と対面をした。
側近候補の子どもたちやその親にとって、飛び級で高等学園を卒業し、バイオリンコンサート開き、国内を飛び回る私の話は恰好の話題だったのだろう。誰もが私を褒めそやし、話を聞きたがり、とたんに人の輪ができた。
それを面白く思わなかったのが、今日の主役ハリー様だ。
「勉強ばかりの頭でっかち!」
「僕もバイオリンを始めたが、あんなもの簡単だ! 僕の方が上手く弾ける!」
主家の後継者の言葉に誰もが息をのむ。
「それより、男としてその姿は何だ!」
確かにその頃の私は小柄で貧弱、女の子によく間違われていた。
「僕が鍛えてやる!」
次期侯爵閣下の言葉に、大人も逆らうことはできない。
庭の広場に連れ出され、木製の模造剣を渡される。
ハリー様も装飾された模造剣を手に取った。
「僕と勝負だ!」
そう言ってハリー様は切りかかってくる。
実は私は剣術も得意だった。
反射神経がいいので、それがバイオリンの演奏にも生かされている。
ハリー様の単調な切込みをいなしながら、ここで打ち負かしたらさすがにマズいだろうって事は、子どもの私でも分かっていた。
「くそ! くそ! 逃げるな!」
ハリー様は真っ赤な顔で、唾を飛ばしながら悪態をついてくる。
そろそろ少し打たれて、負けなきゃこの場はおさまらないだろうなと、手を抜いたその時だ。
ハリー様の模造剣からするりと長い棒が落ち、その手のものはギラギラと輝くものに変わる。
模造刀と思っていたものは真剣で今、鞘が抜かれたのだ。
そう思った時には時すでに遅く、その真剣は私の左手を大きく引き裂いた。
私は倒れ、血の海の中で意識を失った。
ハワード子爵家の長男で後継者だ。
幼少から天才児と言われた私は、優れた記憶力と絶対音感を持っており、学院に通えば常に成績は1位、バイオリンを始めれば稀有な才能だと絶賛されていた。
一度、目にすれば全て記憶できた私にとって、学院1位なんて息をするように簡単なことで、逆に苦労している同級生が不思議でたまらなかった。だから学院の勉強は退屈で仕方なく、いつしか私の好奇心はバイオリンへと向かっていた。
そうしてのめり込んで練習していると、10歳になる頃には私の腕前は王家にも知られ、コンサートも何回か開くようにもなっていた。
いずれは子爵当主になる予定だが、それまでは音楽家として大成することを目標とし、日々修練していた。
しかし、そんな順風満帆な私の子ども時代は、ある日突然終わりを告げた。
我がハワード子爵家の主家であるキャンベル公爵家の後継者、ハリー様の9歳の誕生日パーティーに呼ばれたその日に。
当時キャンベル公爵家では、家臣格である男爵家、子爵家の子どもたちをハリー様の側近候補として、度々機会を設けて集めていた。
私は家臣格ではあるが、キャンベル公爵家の分家筋であるハワード子爵家の後継者であったため、側近にはなれないのでここにはあまり来る機会がなく、この誕生会で5年ぶりにハリー様と対面をした。
側近候補の子どもたちやその親にとって、飛び級で高等学園を卒業し、バイオリンコンサート開き、国内を飛び回る私の話は恰好の話題だったのだろう。誰もが私を褒めそやし、話を聞きたがり、とたんに人の輪ができた。
それを面白く思わなかったのが、今日の主役ハリー様だ。
「勉強ばかりの頭でっかち!」
「僕もバイオリンを始めたが、あんなもの簡単だ! 僕の方が上手く弾ける!」
主家の後継者の言葉に誰もが息をのむ。
「それより、男としてその姿は何だ!」
確かにその頃の私は小柄で貧弱、女の子によく間違われていた。
「僕が鍛えてやる!」
次期侯爵閣下の言葉に、大人も逆らうことはできない。
庭の広場に連れ出され、木製の模造剣を渡される。
ハリー様も装飾された模造剣を手に取った。
「僕と勝負だ!」
そう言ってハリー様は切りかかってくる。
実は私は剣術も得意だった。
反射神経がいいので、それがバイオリンの演奏にも生かされている。
ハリー様の単調な切込みをいなしながら、ここで打ち負かしたらさすがにマズいだろうって事は、子どもの私でも分かっていた。
「くそ! くそ! 逃げるな!」
ハリー様は真っ赤な顔で、唾を飛ばしながら悪態をついてくる。
そろそろ少し打たれて、負けなきゃこの場はおさまらないだろうなと、手を抜いたその時だ。
ハリー様の模造剣からするりと長い棒が落ち、その手のものはギラギラと輝くものに変わる。
模造刀と思っていたものは真剣で今、鞘が抜かれたのだ。
そう思った時には時すでに遅く、その真剣は私の左手を大きく引き裂いた。
私は倒れ、血の海の中で意識を失った。