運命の契約書

第6話 初めてのプレゼント

○美優のアパート 朝

美優、慌ただしく準備をしている。インターンシップが始まって1週間、すっかり慣れた様子。

健人がカレンダーを見ながら。

健人:「そういえば姉ちゃん、今日誕生日だよね」

美優:「え? あ、忘れてた」

時計を見て慌てる。

美優:「大変、もうこんな時間! 」

健人:「おめでとう。でも、お祝いは今度の休みでいい?」

美優:「ありがとう、健人」

急いで家を出る美優。



○神崎グループビル 15階 国際事業部 朝

美優、いつものように真剣に業務に取り組んでいる。

田村:「美優ちゃん、今日はなんだか慌ただしいね」

美優:「朝、寝坊しそうになって……」

佐藤:「最近、毎日遅くまで勉強してるもんね」

美優、夜遅くまで業務関連の勉強をしていることを同期に心配されている。

鈴木係長:「横井さん、無理は禁物よ。体調管理も仕事のうちです」

美優:「はい、気をつけます」


○神崎グループビル 38階 蓮の専務室 同時刻

田中秘書が蓮に報告している。

田中:「横井さんですが、とても熱心に取り組んでいらっしゃいます。ただ、少し頑張りすぎている感もありまして」

蓮:「そうですか……」

田中がスケジュール帳を見る。

田中:「そういえば、今日は横井さんのお誕生日ですね」

蓮:「誕生日?」

田中:「はい、履歴書に記載されていました。7月15日、今日で22歳になられます」

蓮、考え込む表情。

蓮:「そうですか……」



○神崎グループビル 15階 美優の席

美優、昼休みも席で資料を読んでいる。お弁当は質素な手作り弁当。

田村:「横井さん、また勉強? たまには休みなよ」

美優:「この資料、すごく勉強になるんです」

佐藤:「真面目すぎるって」

そこに、デリバリーの配達員が現れる。

配達員:「横井美優様はいらっしゃいますか?」

美優:「え? 私ですが……」

配達員:「お誕生日のお祝いです」

高級そうなケーキの箱を渡される。美優、困惑する。

美優:「でも、私、何も注文していません……」





田村:「誕生日? 横井さん、今日誕生日だったの?」

美優:「あ、はい……でも、誰が?」

ケーキの箱に小さなカードが付いている。

カード:「お誕生日おめでとうございます。いつも頑張っているあなたに -Kより」

佐藤:「Kって誰?」

美優:「わからないです……」

困惑する美優。田村と佐藤は興味深そう。

田村:「もしかして、秘密の彼氏?」

美優:「そんな人いません!」

顔を赤らめる美優。



昼休みが終わろうとする時、また配達員が現れる。

配達員:「横井美優様に、こちらをお届けです」

今度は小さな箱。開けてみると、高性能なノートパソコンが入っている。

美優:「え? これは……」

またカードが付いている。

カード:「あなたの夢を応援しています。これで勉強も仕事も効率よく進められるでしょう -K」

田村:「ちょっと、これすごく高価じゃない?」

佐藤:「普通のプレゼントじゃないよ、これ」

美優、パソコンを見つめて戸惑う。

モノローグ(美優):「こんな高価な物……でも、Kって誰?」



○神崎グループビル 38階廊下

蓮が廊下を歩いていると、エレベーターから美優が見える。パソコンの箱を抱えて困った表情をしている。

モノローグ(蓮):「喜んでもらえただろうか……いや、まずは受け取ってもらえるか心配だ」

田中秘書が近づく。

田中:「専務、横井さんのご様子はいかがでしたか?」

蓮:「まだ確認していません。少し様子を見てみましょう」


○国際事業部 午後

美優、仕事に集中しようとするが、パソコンのことが気になって仕方ない。

モノローグ(美優):「こんな高価な物、受け取っていいのかな……でも、誰からかもわからないし」

鈴木係長:「横井さん、何か心配事?」

美優:「あ、いえ……すみません」

鈴木係長:「集中できないようね。何かあったの?」

美優、迷った末に事情を説明する。

美優:「実は、誕生日プレゼントをいただいたんですが、誰からかわからなくて……」

鈴木係長:「あら、それは素敵ね。きっと、あなたを大切に思ってくれる人がいるのよ」

美優、意を決して田中秘書に相談しに行く。

○神崎グループビル 38階 秘書室

美優:「あの、田中さん、お忙しい時にすみません」

田中:「横井さん、どうかされましたか?」

美優、事情を説明する。

美優:「どなたからかわからないプレゼントをいただいて……こんな高価な物、受け取っていいものか」

田中、微笑む。

田中:「きっと、あなたのことを思ってくれる方からのプレゼントよ。素直に受け取ってはいかが?」

美優:「でも……」

田中:「プレゼントをする方の気持ちを考えてみて。きっと、あなたに喜んでもらいたいだけよ」



田中:「ところで、Kという文字に心当たりは?」

美優:「K……」

ふと、神崎の「K」に思い至る。

美優:「まさか……」

田中:「何か思い当たることが?」

美優:「神崎……の、K?」

田中、困ったような表情。

田中:「それは……私からは何とも」

美優、田中の表情で確信を得る。

美優:「蓮さんが……?」

田中:「もし、そうだとしても、それはあなたを大切に思ってのことよ」



美優、勇気を出して蓮の部屋を訪れる。

○神崎グループビル 38階 専務室前

美優、ドアをノックする。

美優:「失礼いたします」

蓮:「どうぞ」

美優が入室。蓮、少し緊張した様子。

蓮:「どうされましたか?」

美優:「あの……これを」

パソコンの箱を見せる美優。

美優:「蓮さんからでしょうか?」

蓮、観念したような表情。

蓮:「……はい」



美優:「どうして? こんな高価な物……」

蓮:「あなたがいつも古いパソコンで苦労されているのを見て……少しでも勉強や仕事の効率が上がればと思いまして」

美優:「でも、私にはもったいないです」

蓮:「もったいなくありません」

蓮、立ち上がって美優に近づく。

蓮:「あなたは一生懸命努力している。その努力を応援したいと思うのは、自然なことです」

美優:「でも、特別扱いは……」

蓮:「特別扱いではありません」

間を置いて、優しく続ける。

蓮:「大切な人の誕生日を祝いたいと思う気持ちです」

美優、「大切な人」という言葉にドキッとする。


美優、涙ぐむ。

美優:「誰も……誰も私の誕生日なんて気にかけてくれないと思ってました」

蓮:「そんなことはありません」

美優:「家族以外で、こんなにも私のことを……」

声が詰まる美優。蓮、そっとハンカチを差し出す。

蓮:「泣かないでください。今日はあなたの大切な日です」

美優:「ありがとうございます……本当に」

初めて素直にお礼を言う美優。

美優:「大切に使わせていただきます」

蓮:「それと」

蓮、もう一つの箱を取り出す。

蓮:「ケーキ、お一人では多いでしょう。よろしければ、一緒にいただきませんか?」


○神崎グループビル 38階 応接室

蓮と美優、向かい合ってケーキを食べている。夕日が窓から差し込む。

蓮:「お味はいかがですか?」

美優:「とても美味しいです。こんなに美味しいケーキは初めて」

蓮:「それは良かった」

美優:「蓮さんは、いつもこんなに優しくしてくださって……私には勿体ないです」

蓮:「また『勿体ない』ですか?」

微笑む蓮。

蓮:「私は、ただあなたの笑顔が見たいだけです」

美優、胸が高鳴る。

美優(心の声):「この人は、どうしていつもこんなに優しいの……?」


○神崎グループビル 1階エントランス 夕方

二人が一緒にエレベーターから降りてくる。

蓮:「今日は素敵な誕生日になりましたか?」

美優:「はい。一生忘れません」

蓮:「それを聞けて安心しました」

改札前で別れる時。

美優:「今日は本当にありがとうございました。蓮さんのおかげで、とても特別な一日になりました」

蓮:「こちらこそ、一緒に過ごしていただいてありがとうございました」

美優、深くお辞儀して帰ろうとする。蓮がその後ろ姿を見送る。

モノローグ(蓮):「彼女の喜んだ顔を見ていると、こちらまで幸せな気持ちになる」



○美優のアパート 夜

美優、健人にプレゼントを見せている。

健人:「すげぇ、このパソコン高そう! 誰からのプレゼント?」

美優:「会社の……蓮さんという方から」

健人:「へー、すごくいい人じゃん。姉ちゃんのこと、大切に思ってくれてるんだね」

美優、頬を染める。

美優:「そ、そんなんじゃないよ……」

健人:「でも嬉しそうだよ、姉ちゃん」

美優、鏡を見る。確かに今日一日、笑顔が絶えなかった。

モノローグ(美優):「蓮さんの優しさが、私の心を温めてくれる。この気持ち、一体何なんだろう……」

ナレーション(美優):「22歳の誕生日は、忘れられない特別な一日となった。そして、蓮さんへの気持ちが、ただの感謝以上のものに変わりつつあることに、ようやく気づき始めていた──」


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