愛人を作ってもいいと言ったその口で夫は私に愛を乞う

第51話

「い、いやそれもあるが、僕の今までの行動、発言全て── 」

「分かっております!もちろん愛人など作るつもりはございません!あの時は売り言葉に買い言葉というか……。とにかく!このブラシェール伯爵家に泥を塗るような行いをするつもりはありませんので、ご安心下さい」

「いや、僕が言いたいことはそうじゃなくて── 」

「ブラシェール伯爵領を盛り上げること。それが今の私の使命だと心得ておりますので、私は今はそれに全力投球する所存です。レニー様は何もお気になさらず、健やかにお過ごしください!」

まるで決意表明のように私は胸を張り、まくしたてた。出来ることなら社交クラブの件を有耶無耶にしてやり過ごしたい。その気持ちが前面に出ていたのかもしれない……レニー様は訝しげに私を見た。

「……何か隠し事でもあるのか?」

「とんでもございません!ただ、私はブラシェール伯爵家のためにならないことは一つも── 」

「今はブラシェールの家の名などどうでもいい!……とにかく僕の懺悔を聞いてほしいんだ」

レニー様は優しく諭すように私の目を見る。懺悔?私が首を傾げると、レニー様は大きく息を吐いて、話し始めた。

「まず。結婚した当日の話しなんだが──」

え?半年前の懺悔?何?
私は目をパチパチとさせていた。レニー様は何を話すつもりなのだろう。

「あの日の夜の僕の……その、あの夜の発言なんだが──」

私は夜会の時のレニー様との会話を突然思い出した。確か……子作りがどうとか言ってなかったかしら?もしや言いたいことはコレ?

「子作りが義務だという発言ですか?それならば、私もそれが伯爵夫人の務めだと心得ておりますので、レニー様に命令されればその時は── 」


「違う!!そうじゃなくて!」

レニー様は慌てている。── その時。

「失礼いたします。旦那様、お話が……」

ノックと共に執事から声がかかる。

「うるさい!今は忙しいんだ!」
レニー様はイライラしたように答える。

「しかし……!アリシア様が急ぎの用とのことで── 」

「知らん!後にしろ!」

レニー様の言葉に私は驚いた。アリシア様の願いなら、すぐさま飛び出していく筈なのに……。しかし、執事も退かない。

「クラッド様からもお手紙が届いておりまして……どうか扉をお開けください」

「兄さんが……?」

「レニー様、私は逃げませんから、クラッド様とアリシア様のお話を先に。私とのお話はゆっくりで構いませんから」

私が微笑むと、レニー様は渋々といった風に立ち上がり、扉を開けた。

「何の用だ」

レニー様は刺々しい。

「あ、あの……クラッド様の代わりにアリシア様と観劇に行って欲しいと。クラッド様が急用で行けなくなったようで。中々手に入らないチケットだった上、今日が千秋楽らしくて。クラッド様からも頼むと手紙が……」

執事は手紙を見せながら、おずおずとレニー様に頭を下げた。

「はぁ?観劇ぃ??」

レニー様は呆れているようだ。私も立ち上がって、レニー様の側へ向かう。執事の持つチケットに目をやった。

「まぁ!この歌劇。物凄く人気ですのよ。レニー様、行ってらしてください。アリシア様も楽しみにしていたでしょうし、行けなくなったとすればがっかりされますわ」

いつもはクラッド様の居ない隙にコソコソ会ってるレニー様だが、今回は違う。クラッド様直々のお願いなのだ。堂々とレニー様はアリシア様とデート出来るではないか。
私も社交クラブの件を有耶無耶に出来るかもしれない。

「兄さんが行けなくなったのなら、一人で行けばいい」

……レニー様ったら。嬉しいくせに。私はもう一押しレニー様の背中を押してあげることにした。

「レニー様も今日は机に着いてずっとお仕事していらしたのですから、気分転換にちょうど良いと思いますよ」

私がそう微笑めば、レニー様は死んだ魚のような目をして私を見た。


< 51 / 52 >

この作品をシェア

pagetop