愛人を作ってもいいと言ったその口で夫は私に愛を乞う

第60話

「どうしてそんな嘘を?」

「私もそれについて説明を求めましたが、皇太子殿下が女好きだからだ……と。それならば義理の妹だと言えば良かったのでは?と言ったのですが、するとアリシア様の……その、恥を晒すことになるから……と」

アリシア様はレニー様の初恋の相手だ。今がどうであれ、彼女の陰口を言っているようで申し訳ない気持ちになる。レニー様は私の様子に苦笑した。

「アリシアの事は、もう何とも思っていないよ。そんなに気を使わなくていい。それと僕も少し気になることがあってね」

「何か?」

「君たちが晩餐会に出かけた後、アリシアが泣きながらこの屋敷に来たんだ」


「泣いて……?」

「あぁ。『晩餐会があるなんて聞いていない。どうして私を置いていったのか』って。兄さんは晩餐会の事をアリシアに隠していたようなんだよ。確かに、理由は本人には言いにくいから仕方ないだろうが、今までの兄さんならもう少し上手くやるはずなのになって。アリシアがそれをどこで知ったのかは聞けなかったが、その後は何とか宥めすかして屋敷に戻らせたよ。もちろんデボラを伴って参加していることは言わなかった。……今頃喧嘩になっていなければいいが」

「確かに理由は言いにくいでしょうけど……。私、ちょっと考えたんです。クラッド様は皇太子殿下にアリシア様を会わせたくなかったんじゃないでしょうか?……その……女好きだと言うから……」

大切なアリシア様を皇太子殿下から隠したかった……とか?でもそれならそうとアリシア様に伝えても良さそうだが……。

私がそんな事を考えていると、レニー様の舌打ちが聞こえた。

「チッ!なら、デボラを隠れ蓑に使ったとでも言うのか?!それは、それでふざけているだろ!!そんな理由ならデボラの参加を許可しなかった!」

「お、落ち着いてください」

今にもレニー様は寝台から飛び出しそうだ。私は自分の手を離そうとするレニー様の腕を反射的に掴んでいた。

「落ち着いていられるか!抗議しに行ってくる!」

「待ってください!単なる私の想像ですから!クラッド様の真意は分かりません」

レニー様はまだ肩を怒らせていたが、少し落ち着いたように大きく息を吐いた。

「明日、兄さんと話してくる。もし兄さんの考えが今デボラの言っていた通りなら……今後ハルコン侯爵家とは距離を取らなければならない」

「ま、待ってください。別に私も嫌な思いはしませんでしたし……。ただ、少しモヤモヤしただけで。そんな大袈裟にする必要は── 」

「大袈裟じゃないだろう?」

レニー様は私の顔を覗き込むようにして私と視線を合わせた。

「それが兄さんの考えなら、許せることじゃない。それに少なくともデボラ、僕は君が晩餐会から帰ってからずっと、一度も君の笑顔を見ていないんだ。それが答えだろう?」

私はその言葉ハッとした。確かに……晩餐会の途中から私は心から笑えていない。

「でも……喧嘩は嫌です」

「分かってる。ちゃんと説明をしてもらうだけだよ。ただ……兄さんの答え次第だけど」

レニー様の言葉に私は思わず眉を下げた。別に兄弟喧嘩をして欲しいわけじゃない。

「出来れば穏便に……」

レニー様はそっと私の頭を撫でる。

「努力するよ」
そう言ってレニー様は苦笑した。

「さぁ、もう休もう。疲れただろう?」

レニー様の言葉を合図に私達は揃ってシーツに潜り込んだ。

クラッド様の真意は分からないが、きっと私が想像したことが正しいだろう。私はそう思っていた── この時までは。


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