死んじゃうなら、その命くれない?

ep12:コンタクト

 今日は眞白遅いな……

 もうしばらくで始業だというのに、眞白はまだ席についていなかった。私が眞白だった時も含めて、こんな事は初めてだ。

「おっ、おはようございます!」

 ガラガラと教室のドアが開き、一限の教師とともに眞白が教室に入ってきた。

「……桜庭か? こんなギリギリに珍しいな、さっさと席について」

 眞白は頬を上気させながら、バタバタと着席する。教師が眞白なのかと確かめたのも無理はない、今日の眞白はメガネをかけていなかったからだ。

「眞白……もしかして、コンタクト付けてるのか?」

「流石っ。よく分かったね」

 眞白はフフフと笑いながら、忙しなくカバンから教科書を取り出す。流石に何年も眞白をやっていたので、それくらいはすぐに分かる。私は裸眼だと何も見えない上、恐ろしく目つきが悪くなるからだ。

「昨晩何度も練習したのに、今朝はなかなかコンタクト着けられなくて。ホント、遅刻しちゃうところだったよ」

「それより、お金はどうしたんだよ」

 使い捨てのコンタクトで、一月(ひとつき)3千円くらいはかかったと思う。以前、興味があって調べたことがあった。

「近所のうどんやさんでバイト始めたの。もちろん、学校にもお母さんにも許可は取ったよ」

「ええっ! お、お母さんがOKだしたのか!?」

「東雲、桜庭! 私語は慎みなさい!」

 眞白は「はーい」というと、クスクスと笑って舌を出した。


***


「へー……眞白ってメガネ取ったら、そんなに目大きかったんだ。悪くないじゃん。——悠真はどう思う?」

 休憩時間になり、彩奈が眞白をジロジロと見てそう言った。隣りにいる明日香もウンウンと頷いている。

「うん、俺はいいと思うよ。春人は?」

 こんな時、一番に発言しそうな春人が何も言っていなかった。ちなみに、春人が眞白のことを「結構可愛い」と言ったことは、眞白には内緒にしている。

「おっ、おう……俺もいいと思うよ。メガネ無しも悪くない。う、うん」

「良かった! ありがと、みんな」

 眞白はそう言って、ニコニコと笑った。春人が言い淀んだように見えたのは、私の気のせいだろうか。本当はメガネを掛けている方が好みなのかもしれない。

 やがてチャイムが鳴り、皆が席に戻っていく中、私は眞白にLINEを送った。

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どうやって母さんにバイトのOK貰ったんだ?
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どうやってもなにも、普通に言ってみただけだよ
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 うーん、あのお母さんが……なぜか納得できない。

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何か交換条件出したとか?
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なによもう。そりゃ勉強頑張るくらいは言ったよ(笑
そんなに気になるなら、母さんに会って聞いてみたら?
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 眞白は想像もしていなかった提案をぶつけてきた。
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