死んじゃうなら、その命くれない?

ep15:藤崎彩奈

 朝食を作っていると、テーブルの上のスマホが震えた。彩奈からのLINEだった。

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やっぱ、悠真は今日もお弁当だよね?
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そのつもりだったけど、どうかした?
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明日香が今日学校休むらしくって。決めてないなら一緒に学食どうかなって
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 学食か……眞白の時にも行ったことがなかった学食。行ってみるには良い機会かもしれない。私がOKだと返信をすると、不思議なキャラが大喜びしているスタンプが返ってきた。


***
 

 午前中の授業が終わるやいなや、彩奈は私の席まで駆けてきた。

「悠真! ダッシュで行くよ!」

 早足で食堂まで急ぐ彩奈の後を追う。

「え? いつもこんなに急いでるの? すぐに売り切れちゃうメニューがあるとか?」

「違う違う。二人がけの席の数が少ないの。いつもすぐに埋まっちゃうから」

「そうなんだ。別に二人がけじゃなくてもいいよ、俺は」

「ダメダメ。隣が空いてたら、絶対春人と仁が来ちゃうから」

 ハハハ、確かに。春人と仁は、私たちを見つけたらきっと隣に座ることだろう。


「良かった、一つだけまだ席が空いてて。どうする? 私が何か買ってこようか?」

「じゃ、お願いしていい? 何か、おすすめのメニューとかある?」

「男子は唐マヨ丼とか、カツカレーが人気かな。今日は、私は唐マヨ丼にしよっかな」

「じゃ、俺も彩奈と同じでいいよ」

「わかった! じゃ、ちょっと待っててね!」

 私を席に残して、彩奈は食堂のカウンターへと向かった。私の感覚では、二人だけで食事をするなんて、付き合ってる人同士がすることだと思っている。彩奈的にはどうなんだろうか。


「彩奈ってさ、彼氏いるんだよね?」

 彩奈が買ってきてくれた唐マヨ丼を頬張りながら、私は聞いた。

「ああ、広樹(ひろき)のこと? とっくに別れてるよ。——どして? 私がフリーかどうかとか、気になっちゃう?」

 彩奈は嬉しそうな顔でそう聞いてきた。そうか、須藤(すどう)広樹とは別れていたのか……

「い、いや、まだ付き合ってたらさ、俺だったらヤキモチ焼くかなと思って。他の男子と二人で食べたりしてたら」

「あーなるほど、そういうことね。——まあ、とっくに別れたって言っても、ちょうど悠真が転校してきたタイミングだったかな。最近って言えば最近か」

 私は思わず箸を止めてしまった。ま、まさか、私が原因だとか……?

「ハハハ、なんて顔してんのよ。もしかして、俺が転校してきたせいで別れんたじゃないかって?」

「い、いや、そこまでは思ってないけどさ」

「でも、全く影響してないかって言ったら、嘘になるけどね。世の中広いな、まだまだ素敵な人が世の中には沢山いるんだってなって思ったから。——まあ、別れた本当の理由はね、彼ったら凄い無理して自分を作ってた気がしたからなの」

「——自分を作ってたってのは?」

「悠真は広樹のこと知らないと思うけど、まあ陽キャっぽいの。ノリや見た感じは。でもね、中身は全くの正反対で、凄く暗い子で。——だからって、暗い子が嫌いってわけじゃないんだよ。陽キャを演じてるんだな、なんか大変そうだなってそう思ったの」

 私も須藤広樹のことは知っている。須藤とは一年生の時に同じクラスだったからだ。最初は目立たなかったけど、三学期辺りから陽キャな生徒になっていった感じはあった。

「彩奈から別れようって?」

「そうそう。正直に言ったの。無理してる感じが見ていて辛いって」

「そ、そうなんだ、直球なんだね」

「回りくどい言い方をして、後悔したことがあったからね。でも、そんなド直球投げ込んだのに、別れたくないって言われたんだよ。正直、ちょっと困っちゃった」

 聞くのが少し怖かったが、思い切って眞白のことも聞いてみることにした。ちょっと形を変えたエゴサに、最近ハマっているのかもしれない。

「ま、眞白はどうなんだろね? すっかり変わっちゃったんでしょ?」

「そうそう。でもね、眞白は不思議なのよ。最初は悠真の前でキャラ作ってんのかと思ったんだけど、昔の方がキャラ作ってたのかなって思うようになってきて。今の眞白、無理してるようにはとても見えないんだよね」

「そうなんだ。——今の眞白と前の眞白って、どっちが良い感じなの?」

 私がそう聞くと、彩奈は「うーん」と少し間をおいた。

「とりあえず、前の眞白は好きじゃなかったかな。私と目を合わせようとしないし、なんかいつも私を避けてる感じだったし。ハハハ、今の眞白を見てると想像つかないと思うけどさ」

 彩奈はそう言って笑った。
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