嘘つきな天使
雨の日の再会は運命?

■雨の日の再会は運命?


結局、加納くんは『人工中絶同意書』にサインをせず、律儀に私を家…って言うか知坂のマンションだけど送ってくれた。マンションの知坂の角部屋を見ると明かりが灯っていた。知坂、もう帰ってるんだ。

「加納くんありがとうね」家まで送ってくれたことにお礼を言うと

「いえ、俺の方も急に無理言ってすみません。こんな時間まで引っ張っちゃって」
と言われ、スマホで慌てて時間を確認すると夜も10時を過ぎていた。

わ!知坂待ってるだろうなー……

お店予約してくれてたらどうしよう、連絡すべきだったかな、と今更後悔。
あ、でも気を利かせて知坂が料理を作ってくれてるかもしれないし。

加納くんの車から出ると私は部屋まで猛ダッシュ。

知坂から貰った合鍵で鍵を開けると、

ん??

玄関に私が絶対履かないビビットピンクのこれまたたっかいヒールのパンプスが転がっていて…

一瞬知坂が私にプレゼントしてくれるものかな?なんて能天気なこと考えちゃったけどプレゼントだったらこんな風に無造作に転がさないよね。

誰か客なのだろうか。

殆ど何も考えずリビングに向かうと、リビングに明かりが灯っていった。すでに一杯やっていたのだろうか、リビングのテーブルにはビールの空き缶やらワインの空き瓶が転がっている。

この時点で気づけばよかったんだ。ビールのグラスもワイングラスも二組用意されていて、そのうちの一つに赤い口紅の痕が移っていたことを。

それでも知りたくなかったのか、知らないフリをしたかったのか、このときの私は何を考えていたのか分からない。

「知坂ー?居るの?」とそっと寝室を開け中を覗くと

明かりを付けたままの部屋、いつも私と知坂が眠っているベッドで知坂と、初めて見る可愛い女の人が裸で絡まっていた。

「ねー、いいのぉ?もう彼女さん帰ってこない?」それはとても可愛い女の人だった。私と同じ歳ぐらいに見えたけど、私とは雲泥の差。あのピンクのヒールが良く似合う。

「まだ大丈夫だろ」知坂が名前も知らない女の首の下に腕を入れ頬ずりをしている。二人は私が声を掛けたことすら気づいてないようで会話を続ける。

「ねぇいつ彼女と別れてくれるの?私待たされっぱなしは嫌だよ。それにどこがいいのあんな冴えない女」

「まぁ冴えないけどスタイルだけはいいからあいつ、部屋暗くしてヤる分にはいいかな」

「わぁ、サイテー」キャハハと女が笑った。


は――――?
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