嘘つきな天使
彼は一旦閉めた冷蔵庫から缶ビールを取り出すと
「飲める口?」と聞いてきた。
私は大きく頷いた。
何でも良いからアルコールを口に入れたい気分。
部屋は寝室と小さなキッチンとダイニングルームしかなく、私たちは自然寝室のベッドに腰掛けビールを飲むことになった。
ビールを飲んでいる間、私は今まで知坂に言えなかったあれやこれやを吐き出した。
「大体さー、脱いだものぐらい洗濯籠に入れるぐらいできない?普通」
「俺はズボラだからそのまま洗濯機行きかな」
確かにいつの間に着替えたのやら、雨で濡れた天真の服が変わってたことに気づいた。でも一応置いてある洗濯籠の中には何も入ってなかったな。
「色移りするからちゃんと仕訳けなきゃだめだよ」
「色移りしてダメな服なんて持ってねぇもん」
「ふふっ、確かにそんな感じがする」と私がちょっと笑うと
「やっと笑った」と藤堂 天真が微笑を浮かべた。「やっぱ彩未は怒ったり泣いてたりしてるより笑った方がいいよ」
「またまたぁ、誰にでも言ってるんでしょ、そうゆうこと」てかまた彩未って……私、アナタの彼女じゃないんですけど。
でも名前を呼ばれるって、悪くない。
「誰にも言ってるわけじゃねーって。ここ五年は言ってねーかな」
五年……?
「てことは五年彼女いなかったの?って言うか結婚してなかったの?」それとも離婚?見た感じ三十代半ばって感じだし、変人だけど結婚しててもおかしくない年齢だと勝手に思ってたけど、そう言えば左手薬指に指輪はない。離婚だったら悪いこと聞いちゃったかな……
「結婚する前にフられた」
藤堂 天真は初めて聞くとても寂しい声で一言呟いた。
やっぱ聞かなきゃ良かったかな。こんな……こんな寂しそうな顔しないでよ。一度引っ込んだ涙がまた出てきそうになる。
「私たち、一緒だね」缶ビールを無理やり乾杯させると、藤堂 天真は私からビールの缶をそっと抜き取り
顔が近づいてくる気配を感じたけれど、私はそれを避けなかった。
これは私に同情してくれただけで、深い意味なんてない。それとも似た者同士だから?だから一瞬でも心が同調した?
唇が合わさる瞬間天真は
「もし”運命”てのがあるのなら、そうかもしれねぇな。こんな雨の日にこんないい女拾ったんだから」
随分ロマンチックな物言いだと最初はそう思ったが人を猫か何かを拾ってきたものいいはどうか……と考えていると
いつの間にか唇が重なっていた。
ドサリ……と音を立てて私はベッドに倒された。
こんな…殆ど知らないようなほぼ行きずりの男と――――この後のことは想像できたけれど、私は拒まなかった。
藤堂 天真のキスはシュークリームより甘く優しかったからかな。
彼は私に背中を向けるとおもむろにジャケットを脱いで、その下に着ていたカットソーを脱いだ。
裸の背中に彫ってあったタトゥーは片翼の翼。
ねぇどうして片翼なの?
聞きたかったけれど、聞かなかった。それがとてもきれいなものだったから。
乏しい明かりの下、私も体を起こすとその背中のタトゥーの部分にそっと触れた。
「飛べない天使みたいだね」