竜王の歌姫
そんなルーシーの前には、騎士団長が立ちはだかっている。
自らの持つ火の属性によって、ルーシーをとり巻くツタを焼き消そうとするも、溢れ出る瘴気がそれを阻むように火をかき消す。
加えてこの大雨では、どうにも分が悪かった。

意思を持つかのように動くツタは、騎士団長の身を潰そうと上から下から叩きつける。
それをいなす騎士団長の顔色は優れない。
瘴気を間近に浴び続けているのだから当然のことだった。

その時。
呆然とするカノンと、ルーシーの目が合った。
カノンの存在を認識した瞬間、ルーシーの表情は憤怒のそれに変わる。

「おおおお前のせいでぇえええええ!!!!」

ルーシーの心と連動するように、何本ものツタが凄いスピードでカノンに伸びてくる。

「危ない、逃げろ……ぐっ」

助けに入ろうとした騎士団長は、しかしついに身体が限界を迎え膝をついてしまう。

あっという間にツタはカノンに巻きついた。
息もできないほど強く捕えられて、訪れる激痛。
声にならない悲鳴が漏れる。

(だめ……意識が……)

意識が朦朧として、抵抗することもできない。
やがて意識を失ったカノンの身体は、ツタの中に取り込まれて消えていった。
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