竜王の歌姫
最終章

本当の歌姫

草花の絨毯の上に、カノンは立っていた。
ああ、ここはいつもの夢の中だ。

目の前には、竜がいる。
カノンは竜と向かい合っていた。

しかし今はもう、2人を隔てていた“見えない壁“は存在しない。
そっと手を伸ばすと、手のひらに伝わる少し冷たい鱗の感触。
心地良さそうに竜が喉を鳴らす。


やがて竜の姿が、段々と人の形……ギルバートの姿に変わっていって―――カノンは目を覚ます。


「カノン……起きたのか……!」

「……ギルバート様……?」

一番最初に目に入ったのは、ギルバートの顔だった。
身体を支える柔らかい感触に、カノンは自分がベッドの上で眠っていたことを知る。

「身体は大丈夫か? どこかおかしいところはないか?」

ギルバートに支えられながらゆっくりと身体を起こす。
少し身体が軋んだけれど、それ以外はどこにも異常は感じない。
大丈夫の意を込めてカノンは頷いた。

「そうか……よかった。
君はここ一週間眠り続けていたんだ」

「い、一週間……!?」

咳き込んだカノンに、ギルバートが水を注いだグラスを手渡す。
カノンはお礼を言ってグラスを煽る。
乾いた喉を通る冷たさが心地よかった。

「一度にあれだけの瘴気を浄化したんだ。
その反動だろうな」

ギルバートの言葉にハッとする。

「そうだ、瘴気……ニアやみんな、瘴気に侵された人たちは無事ですか……!?」

「ああ、みんな無事だ。
狂化した者も回復して、死者は誰もいなかった」

「……よかった……」

安堵感から肩の力が抜ける。
よかった、これでもう苦しむ人たちはいないんだ。
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