失恋するまでの10日間〜妹姫が恋したのは、姉姫に剣を捧げた騎士でした〜

エステル16

 侯爵位を得た英雄カーク・ダンフィルと、ルヴァイン王国の妹姫エステル王女の結婚式は、半年後という異例の早さで執り行われた。南部を治めるロータス伯爵家は今回の魔獣との争いで運悪く後継を失ってしまった。領主の意向もあり、カークが伯爵家の養子となって今後の復興の指揮をとっていくことになった。魔獣暴走(スタンピード)により壊滅状態に陥った領地の復興の旗印として、英雄と王家の姫の夫婦以上に相応しい存在はない。

 二人の婚姻の予定を前にして、ひとつの問題が持ち上がった。王太女であるソフィアに後継がいないまま、妹であるエステルが王家を離れてしまうのはよろしくないのではという意見が、国の重鎮たちから持ち上がったのだ。

 魔獣暴走(スタンピード)対応のために他国からの見合い話はすべて断った後。今から王配探しを再開するにも、国を跨ぐ婚姻ともなれば様々な条件のすり合わせが必要になり、準備に数年を要する国事となる。さりとて南部の復興は待ったなしの状態で、英雄の活躍の熱気冷めやらぬうちにさっさと話を進めてしまいたい。

 姉姫の婚姻は無理でも、せめて婚約だけでも済ませておくべきだ。他国に声をかけている時間はないため、国内で相手を見繕うよりほかないだろうと、国の事情でソフィアの相手探しが急ぎで進められた。

「エステルとカークの婚姻に水をさしたくありません。今すぐ婚約してくれる方であればこの際どなたでもいいわ」

 あれほど王配選びに慎重だったにもかかわらずそう言い放った姉姫の、失った恋が新たな恋に絡め取られるまで、あと10日——。



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姉姫の物語へと続きます。
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