失恋するまでの10日間〜妹姫が恋したのは、姉姫に剣を捧げた騎士でした〜
ソフィア2
エステルはソフィアの二つ下の妹だ。
母親似の自分とは容姿がさほど似ておらず、ルヴァイン王国の色である深緑の髪色を持って生まれた。裏表のないまっすぐな性質と朗らかな明るさは太陽のようで、彼女がいる場所は遠くからでもよくわかった。隙を見つけては自分の部屋を抜け出し、その足で王城中を探検して回っては、ソフィアの元にもしょっちゅう忍び込んできて元気に探検報告をする。
エステルの後ろには、ソフィアの乳兄弟であるカークの姿がいつもあった。お転婆が過ぎるエステルについていけなくなった侍女たちが、お目付け役としてカークを頼ったのだ。城には自分たち姉妹とカークしか子どもがいなかった状況で、エステルの大人の想像を越えていくような探検に付き合えるのは、男の子であるカークをおいてほかになかった。
もともとソフィアは外で遊ぶよりも、部屋の中で本を読んでいたい性格だ。今思えば、遊び盛りの男の子にとって、自分に付き従うのはさぞかし退屈だったことだろう。エステルより三つ上の彼は、元気な妹姫の無尽蔵の体力にも十分ついていける、こちらも活発な子どもだった。
勉強しながら窓から見下ろす中庭を、時折二人が走り過ぎていくのを、微笑ましく見守った。不思議と羨ましいと思ったことはない。四歳のときには図書館所蔵の児童書の類はすべて読み終わり、より高度な専門書を求めるような自分にとって、帝王学やそれに纏わる学問はとても性に合っていた。姉妹だから比較される場面は多々あるが、自分には自分の、妹には妹の領分があり、それぞれが好きなことをしているだけなのだと、ソフィアは幼心に感じていた。
王太女として未来の女王として、幼い頃から勉学に励むソフィアにとって、日に何度となくある妹の突然の来訪は、一種の清涼剤のように感じられた。そしてこの妹は時折、姉である自分ですら知らない知識を運んできてくれる。
「ソフィアお姉様、見て! 東の宮殿の奥にある中庭に藤の花が咲いたのよ!」
あるとき妹が抱えてきたのは大振りの藤の枝だった。
母親似の自分とは容姿がさほど似ておらず、ルヴァイン王国の色である深緑の髪色を持って生まれた。裏表のないまっすぐな性質と朗らかな明るさは太陽のようで、彼女がいる場所は遠くからでもよくわかった。隙を見つけては自分の部屋を抜け出し、その足で王城中を探検して回っては、ソフィアの元にもしょっちゅう忍び込んできて元気に探検報告をする。
エステルの後ろには、ソフィアの乳兄弟であるカークの姿がいつもあった。お転婆が過ぎるエステルについていけなくなった侍女たちが、お目付け役としてカークを頼ったのだ。城には自分たち姉妹とカークしか子どもがいなかった状況で、エステルの大人の想像を越えていくような探検に付き合えるのは、男の子であるカークをおいてほかになかった。
もともとソフィアは外で遊ぶよりも、部屋の中で本を読んでいたい性格だ。今思えば、遊び盛りの男の子にとって、自分に付き従うのはさぞかし退屈だったことだろう。エステルより三つ上の彼は、元気な妹姫の無尽蔵の体力にも十分ついていける、こちらも活発な子どもだった。
勉強しながら窓から見下ろす中庭を、時折二人が走り過ぎていくのを、微笑ましく見守った。不思議と羨ましいと思ったことはない。四歳のときには図書館所蔵の児童書の類はすべて読み終わり、より高度な専門書を求めるような自分にとって、帝王学やそれに纏わる学問はとても性に合っていた。姉妹だから比較される場面は多々あるが、自分には自分の、妹には妹の領分があり、それぞれが好きなことをしているだけなのだと、ソフィアは幼心に感じていた。
王太女として未来の女王として、幼い頃から勉学に励むソフィアにとって、日に何度となくある妹の突然の来訪は、一種の清涼剤のように感じられた。そしてこの妹は時折、姉である自分ですら知らない知識を運んできてくれる。
「ソフィアお姉様、見て! 東の宮殿の奥にある中庭に藤の花が咲いたのよ!」
あるとき妹が抱えてきたのは大振りの藤の枝だった。