英雄の妻に転生しましたが、離縁されるようです ~旦那様、悪妻の私を愛さないでください~
 執務室を出たあとは、部屋までの移動を急がずにはいられなかった。走って呼吸を乱しておけば、胸の痛みも誤魔化される気がしたから。

 使い慣れた空間に逃げ込んで、ベッドに倒れ込んだとき、ふと我に返った。

(あっ、今頃になって思い出したわ……)

 彼にお願いしたかったこと。猫に会わせてほしいと頼むつもりでいたのだった。あれ以来、とんと姿を見かけないから、どこかへ行ってしまったのだろうと諦めてもいるのだが。

 自分は馬鹿だと、枕に顔を押しつける。あんな話題を持ち出さなければ、悲しみを先延ばしにすることができたかもしれないのに。

 別れがこんなにも苦しく、悲痛な気持ちになるとは思わなかった。いずれそのときがきたら、わたしはどうなってしまうのだろう――。

     *
< 164 / 398 >

この作品をシェア

pagetop