英雄の妻に転生しましたが、離縁されるようです ~旦那様、悪妻の私を愛さないでください~
 ――このまま流されてしまいたい。意地を張らなくてもいいじゃない。

 ほだされそうになったそのとき、馬車の壁を隔てた外から、困り果てた男性の声がした。

「あの~領主様、奥方様。御者でございます。馬車はお屋敷に到着いたしましたが……」

 そのときの気まずさといったら、とても言葉には表せない。馬車の中の時間が止まったかのように、ふたりとも硬直して動けずにいること数秒。
 遅れて沸き上がってきたのは、渡ろうとした橋が急に消えたようなもどかしさと、これでよかったのだという安堵感――。

「す、すみません、今、出ます……!」

 裏返った声を外に投げて、なかなかどこうとしないルシウス様の胸板を押し戻した。
< 219 / 398 >

この作品をシェア

pagetop