英雄の妻に転生しましたが、離縁されるようです ~旦那様、悪妻の私を愛さないでください~
 そう。妖術による施錠だから物理的には見えないし、ただの人間のアレクシアに破れるとは思えない。事実、ヒルダが術を施した日からこれまで、内扉が開かれることはなかったのだ。

 それなのに、昨夜アレクシアはごく自然に寝室に踏み入り、隙だらけの身をこの手に捕らえられ、組み敷かれて怯えていた。
 小鹿のように震える様子がおかしくて少し意地悪を言ったら、目頭を赤くしながら気丈に言い返してくる。初めて見る眼差しに気を取られていると、今度はプラトニックがどうのと言いだして……。
 俺の顔を格好いいとも言っていたが、あれは彼女の本心なのだろうか。

「……」
「ルシウス様?」
「……!」

 回想に没頭していたところを、ロキの声に引き戻された。

(どうしてしまったんだ? 俺は……)

 面食らったような感覚に、驚きを覚える。思えばアレクシアに興味を抱いたのはこれが初めてかもしれない。自分の妻となった女のことだというのに、我ながら薄情だ。
 突然今になって彼女の顔が瞼の裏から消えなくなったのは、なぜなのだろう――。

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