英雄の妻に転生しましたが、離縁されるようです ~旦那様、悪妻の私を愛さないでください~
 これ以上、余計なことを耳に入れたくないと思ったが、今さらこちらの存在を明らかにするわけにもいかず、じっと息を殺したままでいるしかない。

 庭の様子に目を向ければ、ルシウス様と姫君は、浮島にある憩いの場に向かっているようだ。勘ぐるのはよくないとわかっていても、見れば見るほどふたりが親密な関係であるように思えてくる。

「あっ! 今、段差によろめいた姫様を旦那様が支えておられたわ!」
「きゃあー、素敵! キュンキュンするわね~!」

 そんな実況説明までが飛び込んできて、胸のモヤモヤが強まった。
 なんだろう、胸の奥が濁ったみたいに気持ちが悪い。

 ふいに日本で暮らしていた頃の、家族を捨てた母の姿が脳裏に浮かんだ。

 絆を捨て、思い出を捨てて、自己の幸せを優先した母。あれを不義理だと感じるわたしは、浮気や不倫は生理的に受けつけられない。

 ルシウス様はどう考えているのか、その心が気になった。もしも彼とあの女性が、本当にメイドたちが言うような関係にあるとしたら――。
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