行き倒れ騎士を助けた伯爵令嬢は婚約者と未来の夫に挟まれる
「アリシア、そのドレス…… !」
「懐かしいでしょう?婚約者時代にあなたが選んでくれたドレスよ。二人でドレス屋に行ったら、なぜかあの時あなたは二着も選んで、こっちは大人っぽすぎるって言ったら、似合う時になったら着てほしいって言われて。年齢的にもそろそろ大丈夫かなって思ったんだけど、どう?似合う……かしら」

 フレンの瞳と同じアパタイト色のドレス、首から鎖骨まではレースになっていて、肩から背中は大きく開いている。マーメイドラインのドレスは美しく細かい宝石が散りばめられていて、片足には大きくスリットが入っていた。歩くたびに足が見え隠れするデザインだ。買ってもらった当時はあまりにもセクシーすぎて気後れするほどだった。今でも少し気後れして、似合うかどうか正直自信がない。アリシアはドキドキしながらフレンに訪ねた。

「嘘だろ、そんな、まさか……」

 そう言って、フレンはアリシアに近づいてくる。フレンのあまりの気迫にアリシアが驚いてフレンを見つめていると、フレンはアリシアの目の前まで来て、新底嬉しそうに微笑んだ。

「アリシア、似合ってる。本当にとても似合ってるよ」

 フレンは片方の手でそっとアリシアの肩を撫でる。そして、その手はゆっくりと首筋を上り、アリシアの頬に手を添えた。

(えっ?どうしたの?)

 動揺するアリシアをよそに、フレンは熱い眼差しでアリシアを見ながら手を優しく動かし、フレンの手が動くたびにアリシアの体がビクッと揺れる。そしてそんなアリシアの様子に、フレンの瞳はさらに熱を帯びていった。
 そして、フレンの顔が静かにアリシアに近づいてくる。フレンの鼻とアリシアの鼻が今にも触れ合いそうな程の距離まで近づいたその時。

(あ、れ?この状況、どこかで……)

 アリシアは両目を見開いた。自分は、この状況を過去に経験している。過去の自分は、あり得ないはずなのになぜかこのフレンを知っている。

「フレン、様……?」

 アリシアはそう呟いてからハッとして片手で口元を覆う。なぜ、自分はフレンに様をつけたのだろうか。でも、胸の内側から溢れてくる何かがそうさせる。そしてそんなアリシアに、フレンは驚愕の眼差しを向けた。

「アリシア、もしかして、思い出したのか?」

 驚くフレンの言葉を聞いて、アリシアはフレンをじっと見つめてから両目に涙を浮かべ始めた。アリシアの中に、言いようのできないフレンに対する愛が溢れ出て、何かがカチッとはまる。

(ああ、そうか、そういうことなのね……!この人は、ちゃんとここにいる……!)

「良かった、無事に、未来に戻ったのね……!」

 その言葉を聞いた瞬間、フレンはアリシアを力強く抱きしめた。

< 67 / 78 >

この作品をシェア

pagetop