俺が、私で、アイドルで - 秘密を抱いてステージへ
第4章:デビュー・Bluebell Boys始動
 会議室の長机に並べられた紙。そこには、それぞれの新しい名前が印字されていた。

「本名じゃなくて、芸名で活動してもらう。ステージに立つ以上、“商品名”だと思ってくれ」
 マネージャーの声に、四人は紙を手に取った。

「俺は……アオトか」蒼が低くつぶやく。
「なんか硬いけど、まあ悪くないな」

「やった! ヒナタ! そのまんまじゃん!」
 陽大は笑いながら紙を振り回す。

「……ユウキ、か。皮肉だな。勇気なんて俺にはないのに」
 悠生は苦笑して肩をすくめた。

 瞳の手元にある文字は――“レイ”。
 白い紙に刻まれたたった二文字が、やけに重く感じられた。

 ――これが、ステージの私。
 ――“藍原瞳”とは別の、もうひとりの私。

「じゃあ、今日から君たちは“Bluebell Boys”だ。まずはお披露目イベントに向けて準備するぞ」

 その一言で空気が変わった。

   ◇◇

 数日後、衣装合わせのためにスタジオに集まった四人は、ラックにかかった白と青を基調にしたジャケットに目を奪われた。

「おおー、かっけー!」
 ヒナタが一番に袖を通す。鏡の前でポーズを決めて笑った。

「……案外似合ってるな」アオトが冷静に言う。

 ユウキは襟を直しながら小さく呟いた。
「汗だくで着るのがもったいないな」

 瞳――いや、“レイ”は、袖を通した瞬間、胸の奥がざわめいた。
 ――これが、私の居場所。
 鏡の中の姿は、誰がどう見ても「男子アイドル」だった。

   ◇◇

 スポットライトがまぶしい。
 お披露目イベントの会場はまだ空席のホールだったが、舞台に立った瞬間、レイの胸は大きく高鳴った。

「位置につけ!」
 スタッフの声に従い、四人は立ち位置マークの上に並ぶ。
 中央にアオトとヒナタ、右にユウキ。レイは左端。

「もっと間隔を広く。観客から見えやすいように!」
 舞台監督の声が飛ぶ。

 音楽が流れ、マイクを握る。
 歌い出しはヒナタ。元気な声が広がる。続いてアオトが安定した声を重ねる。ユウキのラップが入ると、場の空気が引き締まった。
 そして――レイの番。

 自分の声が、客席の闇に伸びていく。
 ――これが、ステージの響き。
 思わず背筋が震えた。

「MC入るぞ、想定で」
 スタッフの指示に、ヒナタが元気よく手を振った。
「やっほー! 俺たちBluebell Boysです!」

「テンション高すぎ」ユウキがぼそり。
「でもまあ、悪くないな」アオトが淡々と補足する。

 順番が回ってきて、レイは一瞬ためらった。
 でも、マイクを握り直して言った。
「……レイです。よろしくお願いします」

 客席は空っぽ。だけど、自分の声が広がる感覚だけで、胸の奥が熱くなる。

 ――観客が入ったら、どんな景色になるんだろう。
 想像しただけで、息が詰まりそうだった。
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