望みゼロな憧れ騎士団長様に「今夜は帰りたくない」と、良くわからない流れで言ってしまった口下手令嬢に溺愛ブーストがかかってから
『彼女たちは俺と居れば危険があると知れば、すぐに逃げ出してしまうだろう。それを責めるつもりはないが、シャーロットは逃げないし傍に居てくれる。彼女たちとは、全く違う存在だ』

 そう書かれた石板を見せつつ、にっこり微笑んだハビエル様。

 そうだった……!

 私だってマチルダ様と対抗しようと思ったのも、彼が私がずっと悩んできた|口下手であること(コンプレックス)を、なんでもない事のように受け入れてくれた時からだったもの。

 あの時に、私は明確にハビエル様を好きだと思ったし、彼と結婚出来るなら頑張ろうって……そう思ったのだった。

 ハビエル様がいくら外見中身共に特上の男性と言えど、命の危険があるなら、自分はもう引き下がろうという女性は多いと思う。

 そうされてしまい、彼自身は傷つかない訳はないと思う。けれど、ハビエル様は断られても逃げられても諦めずに、ようやく私を見付けてくれたのだった。

『これまで、とても大変でしたね』

 私はカツカツと音をさせて、石板にそう書いた。しみじみとそう思ってしまう。普通に行きたいだけなのに、ままならぬ思うようにならない人生だったと思う。

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