その優しさに溺れる。〜一線を超えてから、会社の後輩の溺愛が止まらない〜
「……あ、ん…っ湊く、ん……」
浅い呼吸の合間に落ちてくる唇の熱が、胸の奥をかき乱していく。
まるで、自分の輪郭がとけてしまうような感覚。
湊の体温も、吐息も、熱も、すべてが自分の中に染み込んできて、溶け合っていく。
乱暴なくらいに深く求められているのに、
その腕の中は、ひどくあたたかくて――優しかった。
どれだけの感情を、この胸の奥で押し殺してきたんだろう。
どれだけ言葉にできない想いを、この腕の中に抱え続けてきたんだろう。
今さら、気づいても遅いのに。
「……ずっと…っ、こうしたかった。詩乃さんを、壊れるくらいに感じたかった」
囁くような声。余裕のない吐息が、耳元をかすめるたびに、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
視界の端が、じんわり滲んでいく。
その瞬間だった。
──その瞳。
潤んだまま、懸命に何かを訴えるように揺れている瞳。
涙はこぼれていないのに、心の奥では確かに、泣いているような──そんな、目。
どこかで、見たことがある…?
快楽との間で、ぼんやりしている頭の中で、無意識に記憶をたどった。
そう、昔……ずっと昔に。
*
真冬の、灰色の空の下。
人通りのない、校舎の隅。
制服を乱し、血まみれで倒れていた少年。
金髪で、睨むような鋭い目をしていた。 だけど、どこか寂しげで、ひとりぼっちで。
「痛てぇ……」と、震える声で唸りながら、それでも手当てを終えたあと──かすれた声で、こう言った。
『……ありがと、詩乃、先輩。』
保健室まで肩を貸したあの帰り道。
頼られたというより、ただ誰にも気づかれずにいた少年をみつけて、放っておけなかっただけなのに、
あのとき彼は、不器用に、でも心からの「ありがとう」をくれた。
あの瞳。
あの、必死に何かを飲み込んでいたような眼差し。
今、目の前で、自分を抱きしめる湊の瞳と――重なった。
*
『ーーピアスは、高校の頃ちょっとだけ。あんまり褒められた時代じゃないんで、秘密です』
(……まさか)
信じたくても、信じきれない。
けれど、胸の奥が確かにざわついている。 言葉にならない衝撃が、心臓を貫いて、指先が小さく震えた。
———思い返せば、ずっと疑問だった。
どうして、湊くんは、こんなにも私に執着するんだろう。
カッコよくて、仕事もできて、誰にでも優しくて、相手には困らない人のはずなのに。
なぜ、私にだけ――こんなにも。
まるで、前からずっと想われていたような、言葉の端々に見え隠れする感情。 同情や気まぐれではない、もっと深い何か。
(あの子の名前、なんだったっけ……)