その優しさに溺れる。〜一線を超えてから、会社の後輩の溺愛が止まらない〜
ずっと怖かった。
想いを伝えること。
恋人になること。
「好き」と言った先に、失う未来が待っている気がして。
でも――
今、湊のすべてを知ったあとで、心の中の何かが、音を立てて崩れ落ちた。

「……わたし、ね」

喉が震えた。けれど、それでも声にする。

「ずっと、自分を守ることで精一杯だったの。……また裏切られたらって、傷つくのが怖くて、湊くんの優しさに甘えてしまった」

隣にいた湊が、そっと詩乃の髪を撫でる。
その温もりだけで、張り詰めていた何かがほどけた。

「ずるいのは、私の方だったんだよね……『好き』って言わないまま、湊くんの気持ちに甘えて、都合よくこの関係を続けてた。
ほんとは怖かっただけなのに……それを“曖昧な関係のままでいたい”なんて、かっこつけて……」

「詩乃さん…」

伝えなきゃ。ちゃんと言葉で。
こわくても。例え、この先なにがあったとしても。
一呼吸おいて、湊の顔を見上げた。

「…わたし…湊くんが…好きです。」

「ーーっ」

「本当は、どうしようもないくらい、あなたのことが、好きです…」

その瞬間、強く抱きしめられた。

「……ありがとう、言ってくれて」

彼の声は少しだけ震えていた。

「俺も、詩乃さんが好きです。ずっと、ずっと前から」

「うん……」

「…俺の、恋人になって下さい。」

「はい。」

あの日、傷だらけで「ありがとう」と言ってくれた金髪の男の子。
ずっと忘れていた記憶が、今やっと“現在”につながった。
心が通った瞬間。
名前のない関係は終わり、“恋人”としての夜が始まる。
湊が、そっと額を重ねる。

「じゃあ、俺たち……もう“身体だけ”じゃないんですね」

「……うん」

「これから、ちゃんと恋人として、あなたの側にいてもいいですか?」

「……うん。湊くん」

優しいキスが、静かに唇に降りた。
――これが、始まりだった。
傷つくことを恐れていた日々から、心を重ねて生きていくこれからへ。静かな夜の中、確かに、二人の時間が動き出した。
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