ブルークレールのソワレ ー甘いお菓子と公爵様の甘い溺愛ー
ナタリーはこの女性が自分の娘に思えてきて、何としても助けたかった。まだ若いのにこのまま誘拐されれば、何をされるか分からない。そう思うと体が勝手に動くのだ。 店の奥にいたマリーは、店頭が騒がしいので奥から顔を覗かせた。。
「ママ、何かあったの?」
ただならない辺りの様子に気付き立ちすくんだ。母の声は大きくマリーに投げかけた。
「マリー来ちゃダメ!」
振り向いた男達はマリーを見てニヤリと笑った。そして一人が厨房に入って行った。
「こりゃいい上物を見つけた。あの方の望む物だ。綺麗なお嬢ちゃん、さあ、おいで」
「何ですか?貴方は、ママに暴力を振るわないで」
「大人しく付いて来るなら、何もしないよ」
後退りするマリーを見て、逃げられないように、腕を掴み店頭に引きずり出した。店頭に行くと店の中央に押し出され転倒した。顔を上げると男がナタリーの腕を強く掴んでいた。ナタリーは振り解こうとするが、男の力には敵わない。ナタリーはマリーと目が合うと言った。
「マリー逃げなさい。ママは大丈夫」
「ママ・・・」
マリーは立ち上がったが、怖くて怯んだ隙を突いて、男に抱き上げられた。男達はそれぞれ女を抱えて黒い馬車に押し込み、そして馬車の中で逃げられないように手首と足を紐で結んだ。
表に止めていた馬車には、男達が配置を決めて、前の馭者台の席に二人が乗り込み、中に見張り役の一人が入った。マリーは何処に向かっているか分からない馬車の中で、心細くて母親のナタリーの腕に顔を埋める。だがナタリーは諦めていなかった。中にいる男の様子を観察していた。
男は紐で手足を縛っているので安心しているようで、居眠りをし始めた。ナタリーはそれを見逃さなかった。幸い前に手を縛られていたので、エプロンのポケットからプレゼント用のリボンを切るハサミを出した。それからマリーの手首の紐を必死で切った。そして小声でナタリーは言う。
「マリー、よく聞きなさい。貴女が助けを求めるのよ」
「無理。私が逃げたら、ママたちが危ない」
「何言ってるの。皆、捕まっていたら、余計に危険よ。だから一番若い貴女なら逃げ切れる。それでママ達を助けに来て」
「出来る気しない」
「すぐとは言わない。探してくれるまで待ってる」
「ママ」
「早く、足の紐を外しなさい。気を付けるのよ。無事でいてね」
「うん、ママも気を付けて」足の紐を慌ててはずした。
「大丈夫よ。さあ、行きなさい。この人が起きないうちに」
「うん、きっと助ける」
「馬車が動いているから、気を付けて降りるのよ」
「うん」
マリーは母親を置いて逃げるのが辛かった。このまま会えなくなるかもしれないからだ。そう考えるとマリーの目に涙が溢れてきた。母親に心配させたくないので涙を拭いて、男を起こさないよう静かに扉を開け外に転げ落ちた。
落ちた音で男は起きた。何があったか確かめるため、開いた馬車の扉の外を見た。するとマリーが地べたから起き上がり、黒い馬車を見ている姿があった。暫くして走って逃げていく様子を呆然と見ていた。慌てて馭者台にいる男に呼びかけた。
「おい、女が逃げた!」前にいる二人の男は呆れていた。
「何だって、また逃げたのか」
男の1人が馬車を急停車した。後ろを確認すると二人の女しかいない。ナタリーは男達の慌てぶりを見て、マリーが捕まらないことを願っていた。男の1人が言う。
「何をやってだ。肝心な女が逃げているだろう」
「すいません」
「お前は二人を見張っとけ」
「はい、分かりました」
「女はどっちに逃げて行った」
「右奥の角を曲がって行きました」
「また、この二人を逃がしたら、ただでは済まないからな」
「はい、すいません」
前方の御者台にいた男二人が、マリーを探しに街の角を曲がって走り出した。
黒装束の男二人はマリーを探し回るが、なかなか見つからない。手当たり次第、家の扉を叩き開けさせると、中に踏み込み家中を探し回った。次から次へと隈なく探していた。
マリーは生れ育った、この街の何処に何があるか、全て知っていた。だから余裕が少し出てきた。男たちに追いかけられても母親を助けるため、逃げ切る自信があった。そこで幼馴染のエリックの所に行くことにした。
自宅からそう遠くはないので、辺りを気にしながら隠れもってエリックの家に着いた。そして扉を叩いた。
「エリック、エリック開けて」
「何だ、マリーか」エリックはマリーだと声ですぐに分かっていた。
「早く開けて、怪しい人たちに追いかけられているの」
「何、寝ぼけたこと言っているの。まだ寝るには早いぞ」
マリーが冗談を言っていると思い扉を開けて、エリックは笑顔で迎えた。するとマリーは慌てて中に押し入ってきた。
「何だ。強引に男の家に踏み込むのか?」
「バカ、人が困っているのに」
「どうした?」
マリーのただならない様子に真顔になった。水色のドレスと白いエプロンの裾は砂だらけになっていた。涙を堪えきれずにマリーはエリックに抱きついた。エリックは優しく後頭部を撫でて落ちつかせた。
「何か、怖いことがあったのか?」マリーは抱きついたまま顔を上げて上目遣いで言った。
「ママが攫われた。私を逃がして今、男達に捕まっている」
「えっ、どういう状況?」
「その男達に追われているの。助けて」
「助けるけど、状況が見えない」
ドンドンと扉を叩く音が激しい。男の大声がした。
「開けろ、探し物がある。開けるんだ」
マリーはエリックにしがみついた。エリックは考えていたが、すぐにマリーを離し実験して行った。そして薬の瓶を、奥の部屋から持って来た。それをマリーに差し出した。
「俺を信じて、これを飲んでみろ」
「大丈夫?」
「だから信じろ」
マリーは頷き目を瞑って薬を一気に飲み干した。エリックは寝室にマリーを入れベッドに隠れているように指示した。言われるがままにマリーはベッドに潜り込んだ。