さくらびと。 蝶 番外編(1)
第8章 届かなかった想い
退勤の時間になり、私はいつものように帰宅するため病院を後にした。
今日の千尋さんは、いつもより少し元気がないように見えたが、薬が効いてきたのか、穏やかに微笑んでくれた。
きっと、疲れているのだろう。
そう思って、私は彼女の言葉を鵜呑みにしてしまった。
まさか、あんなことになるなんて、想像もしていなかった。
その夜、私は自宅で、一人静かに夕食を摂っていた。
ふと、スマートフォンの着信音が鳴り響いた。
病院からだった。嫌な予感がした。
電話に出ると、今晩夜勤している看護師の葉山さんからだった。
彼女の声は、いつもより震えていた。
「蕾さん...大変なことが...猪尾さんが...」