アパレル店員のお兄さんを【推し】にしてもいいですか?

誓い

 3月下旬の沖縄。空港から移動し、ホテルに着いたさゆか、一優、さゆかの母、中原の4人。
 しばらくして、さゆかと一優は母のいるブライズルームに入った。
「わぁー」
ウェディングドレスを身にまとい、椅子に腰掛ける母の美しい姿に感動する。
「お母さん、すごく綺麗」
「ありがとう」
「あれ、中原さんは?」
「年甲斐もなくファーストミートがしたいって言われてね。先に待ってるみたい」
「ふふ、ラブラブで何より」

 スタッフに案内され、チャペル会場に移動した。
「おぉー!」
白いチャペルの目の前には、青く澄み渡った海が広がっていた。
「2人だけだから、ファーストミートしてそのまま挙式を始めるみたいです」
「オッケー。さゆかが写真で、俺が動画だね」
 司会者が進行を始めた。
「新郎ご入場です」
スマホを構える2人。ドアが開き、タキシード姿の中原が登場した。
(中原さんかっこいい)
一歩一歩ゆっくりと祭壇に向かう。
「続きまして、新婦ご入場です」
ドアがゆっくり開くと優しく微笑む母がいた。さゆかが中原の表情をレンズ越しに捉える。一瞬驚いた顔をして頬を赤くし、幸せそうな笑顔を見せた。少し照れくさそうに母が祭壇に歩いて行く。
「愛ちゃん、綺麗だよ」
「ありがとう。いっくんもかっこいい」
 式が進行されていき、指輪の交換がされた。そして、中原が母のベールをゆっくりと上げ、ベールを整える。
ちゅ
母のおでこに誓いのキスをした。

 全ての進行が終わり、退場後はチャペルや浜辺で写真撮影が行われた。
(2人とも本当に幸せそう。こうやって夫婦になって、家族になっていくんだなぁ)
さゆかはチラッと隣の一優を見た。


 ホテルのビュッフェで夕食を堪能し、それぞれの部屋に戻った2組。
「もう遅いし、今日はシャワーだけにしようか?」
「そうですね。先に浴びてください」
 さゆかがシャワーを終えると、ベットに一優が寝転んでいた。
「一優さーん」
呼びかけに反応せず、ぐっすり眠っている一優。
(寝ちゃってる。昨日遅くまで仕事で、今日は朝早かったし疲れたよね。お母さんたちもいて気疲れもしただろうし。嫌な顔せず付き合ってくれて…優しい)
一優に布団をかけ、頬にキスをした。

 「んー」
翌朝、一優が目覚めるとさゆかがバルコニーから室内に入ってきた。
「おはようございます。今日もすごく良い天気ですよ」
「おはよう。ごめん、俺昨日いつのまにか寝ちゃってて」
「いえ、私もすぐに寝たので気にしないでください」

 お目当ての水族館に着いた2人。
「わぁーー!ずっと来てみたかったんです!」
「2人で水族館来るの久々だね!」
 館内を見て回る。
「さゆか、チンアナゴいたよ!」
「ほんとだー会いたかったよー」
「あはっ、推しへの愛がすごいね」
 大型水槽を下から見ることができるエリアに着き、2人で上を向く。
「うわーすご!海の中にいるみたい。あ、ジンベイザメが通った!」
「下から見るなんて迫力やばいね」

 2人はイルカショーを前列で見ている。イルカが勢いよくジャンプし、プールにダイブした。水しぶきが2人にもかかり、笑い合う。
「わぁ、結構濡れた」
「あはっ、やばーい」 


 夜ご飯を食べ終えたさゆかと一優は、歩いてホテルに戻っているところだった。
ポツポツ…
「え、雨?」
ザァーッ
降り始めた雨は、一気に激しくなる。
「急いで戻ろう」
駆け足でホテルに向かう。

 「あんまり濡れなくてよかった」
「だね。風邪引くといけないし、先にシャワー浴びてきて」
「一優さんのほうが濡れてるし、お先にどうぞ」
「…じゃあ、一緒に入る?」
さゆかは顔を赤くしながら首をおおきく横に振った。
「もぉー。じゃあ、ぱっと浴びてくるから」

 シャワーを済ませたさゆかが、髪を乾かし室内にいくと
「さゆか」
ベットに座っている一優が両手を広げた。照れながらゆっくり近づいたさゆかをぐっと引き寄せた。
「高校卒業したね」
「…ですね」
「さゆかも同じ気持ちなら、もう我慢しないんだけど…」
ドクンッ
(この状況で私に委ねるなんてずるい…)
「同じ…気持ちです…」
微笑み、さゆかを横に座らせ唇にキスをした。
首筋や鎖骨にキスをしながら、さゆかのパジャマのボタンを外し始める。
ドキッ
「あの…電気を…」
「ん」
パチンっ
月明かりが2人を照らす。
「さゆか…愛してるよ」
「…私も愛してます」
見つめ合い、ゆっくりと身体を重ねた。

 翌朝。さゆかはベットで目を覚まし、横で眠る一優を見た。
(ついに一優さんと…)
昨夜のことを思い出して恥ずかしくなるさゆか。
(とりあえず顔洗おっと)
ベットから出ようとすると
グイッ
一優が腕を掴んだ。
「あと5分だけ…」
ぎゅっ
さゆかを抱き寄せ、再び目を閉じた。
(不意にくる甘えん坊モード!きゅん)

 「おはよう。お母さんたちそろそろ移動するから。2人とも気をつけて帰るのよ」
「はぁーい」
(お母さんたちは今日から宮古島に行く)
「一優くん、本当にありがとうね」
「こちらこそ、素敵な瞬間に立ち会わせていただきありがとうございました」
ロビーで母たちを見送る。
「飛行機までもう少し時間あるけど、どうしますか?」
「うーん…あ、ちょっと待ってて」
一優がフロントのスタッフの元へ行き、すぐに戻ってきた。
「こっち来て」
さゆかの手を握り、歩き始める。

 着いたのは、チャペルの外にあるガゼボ。海に浮かんでいるような真っ白なガゼボの中に立つ2人。
「もうすぐ一緒に暮らすけど、不安なことや心配なことはない?」
「うーん、家での気を抜いてる私を見て、冷められないか心配ですね」
「あはは、そういう姿を見れるのも俺だけの特権だから、むしろ見せてよ」
「ふふっ。どちらかと言うと、楽しみな気持ちの方が大きいです。ドキドキして心臓が持つか分かりませんけど」
「俺もすごい浮かれてる。これからは、おはようとただいまを直接言い合えたり、毎日一緒にご飯を食べたりできるの幸せだなって」
「日常になるなんて、なんだか不思議ですね」
「色んなことが当たり前になるかもしれないけど、何年経ってもさゆかと過ごせる毎日が奇跡だってこと忘れない…」
さゆかの左手を持った。
スッ
「えっ…」
薬指に指輪が光る。
「俺を選んでくれてありがとう」
泣きそうな顔になるさゆか。
「結婚してください」
「ゔぅー…はいっ」
ぎゅっ
泣きながら一優に抱きついた。そんなさゆかの頭を優しく撫でる。

あなたとだから共に生きたいと思えた
終わりなんて考えられないくらい
ずっと愛し合おう
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