貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜

遣らずの雨に連れられて

 数十分後。二人は、ホテルのロビーにいた。

「今夜は帰しません。帰れないので」

「帰れないからか〜」

 明人が真顔で言う冗談に、詩乃が気の抜けた返事をする。

 明人は慣れた風にチェックインを済ませ、ルームキーを受け取った。

 外では、相変わらず激しい風雨が吹き荒れている。

 強烈な、ひと足早い春の嵐だった。

 天気予報では、せいぜい曇り時々雨だったのだが。

 今日になって急に低気圧が発達し、たいへんな暴風雨になってしまった。

 予約していた高速バスは、即座に運休。

 電車で帰る道は残されていたが、本数は多くない上に大幅な遅延も起こっていた。

 最悪、中途半端なところで終電を逃してしまう恐れもある。

 それならいっそ、この近くで宿を取った方が——と、明人は冷静に判断した。

「別部屋を取ろうとしたのですが、すみません」

 いかにもすまなさそうに、明人が言う。
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