貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜
彼女の、職場での活躍。それを聴いていると、いつも胸がざわついた。
決して有名ではない会社の、小さな総務部。
言ってしまえば、職務内容も地味だ。
なのに、彼女はあんなにもイキイキしている。
部署の人と仲良くなって、職場を和ませる。
気難しい人に好かれて、交流する。
どれも、会社の利益に直結するわけではない。
だが、あの会社にとって、詩乃はもうかけがえのない人材になっているのだろう。
そしてなにより彼女は、その居場所を自分自身で選び、見つけた。
ただ能力が高いだけで、安定した職場だからと淡々と働いている自分とは違う。
「ワクワクしてる、か」
洗剤の泡が流れていくシンクを擦りながら、小さく呟く。
「明人くんの物語を読んだ人は、きっとみんなワクワクしてるね」
詩乃がくれた言葉が、やさしく明人の心に漂い続けていた。