宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「そうよね、わたくしも鶏の寿命など考えたこともなかったわ。リーゼロッテ、あなた本当におもしろいわね。まあ、言っても人の寿命もあってないようなものだけれど」

 鶏たちに餌を撒く王女の後ろで、ヘッダが悲しそうな顔をした。次いでリーゼロッテを睨みつけてくる。

 コッコッコ、とたのしげな声だけが辺りに響く。リーゼロッテは何も言えずに、鶏たちが地面を啄む様子を黙って見続けた。

「ほら、マンボウもお食べなさい」

 遠巻きに見守っていたマンボウの地面に、小さな穀物が散らばっていく。そこでようやくマンボウも啄み始めた。お腹が空いていたのか、その姿は一心不乱だ。
 王女と会話ができる時間は滅多にない。いまだ鬼の形相のヘッダに委縮しつつも、リーゼロッテはやっとの思いで口を開いた。

「あの、クリスティーナ様……わたくしはいつまでここにいる事になるのでしょうか」
「……まだなんとも答えられないわ。でもきっと、そう長くは続かない」

 たのしげに餌を撒いていた王女の顔に、ふと影が降りる。歩き回る鶏たちを見ているのに、心はどこか遠くにいっているかのようだ。

 リーゼロッテの不安げな視線に気づいたのか、王女はやわらかい笑みを返してきた。

「でもその前に一度、公爵の元に帰してあげられるわ。白の夜会に出るのでしょう? それが終わったらまたすぐこちらに来てもらうけれど」
「夜会に参加してもよろしいのですか?」

 頷き返されて、リーゼロッテは瞳を輝かせた。ひと時でもジークヴァルトと一緒にいられる。それだけでふさぎ込む気持ちも吹き飛んだ。

「人の気も知らないで……」

 刺すような視線にはっと表情を改める。憎々し気な顔のまま、ヘッダがわなわなと唇を震わせていた。

「いいのよ、ヘッダ。大丈夫、まだ時は満ちていないわ」
「……はい、クリスティーナ様」

 泣きそうな声で答えると、ヘッダは唇をかんで押し黙ってしまった。

(時は満ちていない……?)

 王女は重大な何かを抱えている。それは伝わってくるのに、クリスティーナは自分にそれを教えるつもりはないように思えた。

(きっとわたしが口を(はさ)むことではないのよね……)
 言い聞かせるように瞳を伏せる。

 数日後、リーゼロッテは王女の言葉通りに、フーゲンベルク家へと一度帰されたのだった。






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