ガラスの魔法、偽りの花嫁
第19章 愛か虚無か
深夜。
玲奈は香水の瓶を手に、屋敷の廊下を歩いていた。
迷い続けていた足が、ついに透真の執務室の前で止まる。
(聞かなければ……私は壊れてしまう)
震える指で扉を叩いた。
「入れ」という低い声が響く。
執務室には、ランプの灯りだけが揺れていた。
透真は机に書類を広げていたが、玲奈の姿を見るなり、わずかに眉を寄せた。
「こんな時間に……どうした」
玲奈は答えず、手にしていた瓶を机に置いた。
ガラスが小さく音を立てる。
「――教えてください。この香りは……誰のためのものなんですか」
透真の瞳が鋭く揺れた。
「美咲さんは言いました。これは二人の記憶だって」
声が震える。
「私は……ただの代用品なんですか?」
沈黙。
透真の拳が机の上で音を立てた。
「……美咲の言葉を信じるのか」
「だって、あなたは何も言わない。いつも“契約”ばかりで、私を遠ざけて……!
本当に私を想ってくれているなら、なぜ隠すんですか!」
涙が頬を伝い落ちる。
透真は立ち上がり、玲奈に歩み寄った。
その瞳には激しい炎が宿っていた。
「玲奈。……俺がお前を代用品だと思ったことなど、一度もない!」
声が低く、震えていた。
「なら、なぜ……!」
「怖かったんだ」
吐き出すような声。
「俺の想いを伝えれば、お前を縛り、苦しめると思った。……だが、本当は自分が傷つくのを恐れていただけだ」
玲奈の胸が大きく揺れる。
透真の表情は、初めて見るほど脆く、必死だった。
「この香りは……お前のために作った。
最初に出会った夜、お前が纏っていた涙の色――あれが俺を突き動かした。
お前を閉じ込めていた殻を破る魔法を作りたかった。それだけだ」
言葉の一つ一つが、玲奈の胸に突き刺さる。
「……信じていいんですか」
玲奈の声はかすれていた。
透真は彼女の頬に手を伸ばし、指先で涙を拭った。
「信じろ。俺のすべてを賭けて言う。お前は代用品なんかじゃない」
玲奈の視界が涙で滲む。
だが、その奥に確かに“愛”の光が見えた。
けれど、その瞬間。
机の上の電話が鳴り響いた。
透真は受話器を取ると、表情を硬くした。
「……わかった。すぐ向かう」
玲奈が不安げに見つめる。
「どうしたんですか……?」
「会社に問題が起きた。……美咲が関わっている」
緊張が走る。
愛を確かめた直後に、新たな影が迫っていた。
玲奈は香水の瓶を手に、屋敷の廊下を歩いていた。
迷い続けていた足が、ついに透真の執務室の前で止まる。
(聞かなければ……私は壊れてしまう)
震える指で扉を叩いた。
「入れ」という低い声が響く。
執務室には、ランプの灯りだけが揺れていた。
透真は机に書類を広げていたが、玲奈の姿を見るなり、わずかに眉を寄せた。
「こんな時間に……どうした」
玲奈は答えず、手にしていた瓶を机に置いた。
ガラスが小さく音を立てる。
「――教えてください。この香りは……誰のためのものなんですか」
透真の瞳が鋭く揺れた。
「美咲さんは言いました。これは二人の記憶だって」
声が震える。
「私は……ただの代用品なんですか?」
沈黙。
透真の拳が机の上で音を立てた。
「……美咲の言葉を信じるのか」
「だって、あなたは何も言わない。いつも“契約”ばかりで、私を遠ざけて……!
本当に私を想ってくれているなら、なぜ隠すんですか!」
涙が頬を伝い落ちる。
透真は立ち上がり、玲奈に歩み寄った。
その瞳には激しい炎が宿っていた。
「玲奈。……俺がお前を代用品だと思ったことなど、一度もない!」
声が低く、震えていた。
「なら、なぜ……!」
「怖かったんだ」
吐き出すような声。
「俺の想いを伝えれば、お前を縛り、苦しめると思った。……だが、本当は自分が傷つくのを恐れていただけだ」
玲奈の胸が大きく揺れる。
透真の表情は、初めて見るほど脆く、必死だった。
「この香りは……お前のために作った。
最初に出会った夜、お前が纏っていた涙の色――あれが俺を突き動かした。
お前を閉じ込めていた殻を破る魔法を作りたかった。それだけだ」
言葉の一つ一つが、玲奈の胸に突き刺さる。
「……信じていいんですか」
玲奈の声はかすれていた。
透真は彼女の頬に手を伸ばし、指先で涙を拭った。
「信じろ。俺のすべてを賭けて言う。お前は代用品なんかじゃない」
玲奈の視界が涙で滲む。
だが、その奥に確かに“愛”の光が見えた。
けれど、その瞬間。
机の上の電話が鳴り響いた。
透真は受話器を取ると、表情を硬くした。
「……わかった。すぐ向かう」
玲奈が不安げに見つめる。
「どうしたんですか……?」
「会社に問題が起きた。……美咲が関わっている」
緊張が走る。
愛を確かめた直後に、新たな影が迫っていた。