気まぐれヒーロー2
嵐の前のなんとやら
『タマ、おいで』
こそばゆくなるような、甘く優しい声がした。
見渡す限り、緑の波がうねる大草原。
彼は両手を広げて微笑みながら、私を待っている。
『ジローさん!!』
私は走った。全力で、彼のもとへ。
大好きで、大好きでたまらない彼のもとへ、満面の笑みで駆け寄る。
あと少し。手を伸ばせば届く。
そう、もうちょっと……もうちょっと……!!
「ジローしゃああん──……あだっ」
本当に触れられそうなところまで来た、その時。
ドンっという衝撃と共に、視界が真っ暗になった。
……あれ?背中がゴツゴツしてる
それに、やたらと全身が痛い。なんで?
「じろーしゃん……?」
ぼんやりした意識が、だんだん浮上していく。
まぶたを上げると、朝の光が容赦なく目に突き刺さった。
思わず目を閉じて、もう一度そっと開く。
視界に飛び込んできたのは、見慣れた天井、勉強机、クローゼット、クマのぬいぐるみ、壁に掛かった制服。
……私の部屋だ。
「はあ……夢か~」
ちぇっ。せっかくジローさんに、イイコイイコしてもらえるとこだったのに。
甘々な夢の余韻をぶち壊されたことにブツブツ文句を言いながら、清々しい朝を迎えた。
昨日は色んな事があった。
悲しい涙を流したけれど、最後は笑顔になれた。
“またな”
その言葉をおまじないみたいに、何度も胸の奥で繰り返す。
夢じゃないんだ。
この世界で、ジローさんに会える。
そう思うだけで胸が弾んで、早く学校に行きたくてたまらなかった。
鼻歌まじりで、ふわふわ気分のまま階段を下りる。
朝ご飯食べて、顔洗って、歯磨いて、用意して行こう。
……なのに、一階に下りると、リビングが妙に騒がしかった。
変だ。いつもと雰囲気が違う。
お母さんとお父さんだけのはずなのに、どうしてこんなに賑やかなんだ。
ケンカでもしてるの?
いや、そんなわけない。
お父さんがお母さんに逆らえるはずがない。ケンカにすらならないに決まってる。
妙な胸騒ぎがした。
嫌な予感がする。しかも、当たりそうで怖い。
私は息を潜め、そーっとリビングのドアを開けた。
一体何が起こってるのか、中の様子を慎重に窺う。