気まぐれヒーロー2
ジローさんは、寡黙だった。
もう、その瞳にドロドロした色はない。
しんと静まる倉庫内で、私とハイジの間には険悪なムードが漂い始める。
飛野さんとジローさんに集まっていた視線が、次には私達へと移った。
「お前も、そこのバカ女と同類なのかよ。頭悪ィんじゃねーの?」
「ハイジ、お前──」
「ちょっと黙っててくれよ飛野さん」
ハイジは、朝美を一度鬱陶しそうに見下ろし、すぐに私へと視線を上げた。
コイツが口にした『バカ女』が朝美を指しているんだと、その目の動きでわかった。
朝美本人の前で、ハイジは暴言を吐いた。聞こえているっていうのに。
たぶんそれを察した飛野さんは、諌めようとしたんだと思う。
でも、ハイジが頑なに自分の意思を押し通そうとしたから。
飛野さんはため息をついて、口を閉ざした。
今にも『やれやれ』とでも言い出しそうな様子に、手のかかる年下ばかり相手にして苦労するなと思った。
「そういうこと、思ってても言わないでよ。傷つくこと、平気で言わないで!」
ハイジは優等生でも真面目でもないし、どっちかって言ったら不良なんだろうけど。
ちゃんと人の気持ち、わかるヤツだって信じてた。
人の心を言葉で殴るようなこと、しないって思ってた。
「その顔、すげえ笑えんだけど。ひでえツラしてるよなぁ、ブスがもっとブスになっちまってよ」
けれど……そうじゃなかったの?
なんで笑うの?なんで、そんな屈折した笑みを浮かべるの?
それがあんたの本心なの?
違うでしょう?
どうして……嘘、つくの?
私は知ってるのに。何度も見てきた。
ハイジの優しさを。意地悪だけど、優しい瞳を。
優しく涙を拭ってくれた、手の温かさを。
だから、動揺が大きかった。
なんでそんなヒドイこと言うんだろうって。
もしかしたら、私が見てきたハイジが偽りだったんじゃないかって。
ハイジ……何が、あったの……?
「似合ってねーんだよ」
ハイジの口元から笑みが消え、その顔と瞳が、微かに和らいだ。
それでも厳しくて、私を咎めるような顔つきに違いはないけど。
だけど──その目と声を聞いて、確信したんだ。
やっぱりハイジは、ハイジだった。
お化粧して、髪型変えて、スカートだってちょっぴり短くした私に……
“似合ってない”
ハイジはそう言った。
こんなの、全然私じゃない。
全然、私らしくないって。
本当にビックリするくらい、違和感あるって──。