嘘つきなあなたに、もう一度恋をしますか?~冷たい仮面の下の真実~
第7章 初めてのすれ違い

夕食のテーブルを挟んで、二人の間には重苦しい沈黙が漂っていた。
ナイフとフォークが皿に触れる音だけが響き、言葉は生まれない。

怜司が静かに口を開いた。
「……紗良。君はこの頃、俺を避けているな」
「そんなこと……」
「なら、どうして目を合わせない」

問い詰められ、紗良の心臓が跳ねた。
――もう、隠せない。

「……今日、神宮寺玲奈さんが屋敷に来たの」

怜司の手が止まる。
「玲奈が? 俺ではなく、君に?」
「ええ。そして……『怜司さまと別れてください』って言われたわ」



一瞬、空気が凍りつく。
怜司の眉が鋭く寄せられ、声が低く響いた。
「……何を言っているんだ、あの女は」
「嘘じゃない! はっきりそう告げられたの」

紗良は震える手で胸を押さえた。
「怜司さんは私じゃなく、彼女を選ぶって……」
「そんなこと、あるはずがない!」

怜司の声は怒りと動揺に震えていた。
「俺が誰を愛していると思っている! 君しかいない!」
「……でも、私は見たのよ」

紗良の瞳から涙が零れる。
「喫茶店で……あなたが玲奈さんに微笑みかけるところを。私には、もう向けてくれない顔だった」



怜司は大きく息を吐き、額に手を当てた。
「……それは仕事だ。表面的な態度に過ぎない」
「そう言って誤魔化すの?」
「誤魔化しじゃない! 俺は君を守るために……」

言いかけて、怜司は口を噤んだ。
言えない事情がある――それが、逆に紗良の疑念を深める。

「やっぱり……隠していることがあるのね」
「違う、紗良!」

必死の声も届かない。
紗良は椅子を立ち、震える声で告げた。
「もう……信じられないの」



怜司の瞳に衝撃が走る。
「紗良……」

伸ばされた手を振り払うと、空気が鋭く裂けた。
二人は同じ空間にいながら、もう別々の場所にいるように感じられた。



その夜。
ベッドに横たわっても、互いに背を向けたまま眠れぬ時を過ごす。
同じ屋根の下にいても、心は遠く離れていた。

――これが、本当のすれ違いの始まりだった
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