嘘つきなあなたに、もう一度恋をしますか?~冷たい仮面の下の真実~

第4章 真実の目撃

冷たい風が頬を撫でる午後。
紗良は久しぶりに街へ出て、ひとり喫茶店の扉を押した。
ここは、かつて怜司と通ったことのある落ち着いた店。
ほんの少しでも、彼との記憶に触れて心を慰めたかったのだ。

カラン、とベルが鳴り、紗良は窓際の席に腰を下ろした。
暖かなカプチーノの香りが漂う。
外を眺めながら、無理にでも心を落ち着けようとしたその時――。

ふと、視線の端に見慣れた背中が映った。
漆黒のスーツに、堂々とした姿。
「……怜司さん?」

信じられない思いで目を凝らす。
彼は確かにそこにいた。
しかも、その隣には、噂の令嬢――神宮寺玲奈の姿が。



二人は向かい合って座り、談笑している。
怜司の横顔は、紗良が知る冷徹な社長の顔ではなかった。
柔らかく微笑み、玲奈の言葉に軽く頷く――。

その表情は、紗良にさえ滅多に見せてくれないものだった。
胸が鋭く痛む。
心臓を掴まれたように呼吸が浅くなる。

「嘘……」

声にならない声が唇から零れる。
カップに伸ばした指が震え、白い陶器が小さく音を立てた。



「……どうかしましたか、お客様?」
店員が心配そうに声をかける。
紗良は慌てて微笑を作り、「大丈夫」と答えた。
だが視線は窓際の二人から離れない。

玲奈がグラスに口をつけ、怜司がナプキンを差し出す。
彼女は少し頬を染め、怜司は優しく微笑んだ。
――それはまるで、恋人同士の仕草。

(……やっぱり、噂は本当だったの?)

耳にした言葉が次々に甦る。
「親しげ」「恋人みたい」――すべて現実だったのだと、視界が滲んでいく。



会計を済ませ、二人が席を立った。
怜司が自然に玲奈の背に手を添える。
その光景を目にした瞬間、紗良の胸の奥で何かが崩れ落ちた。

「もう……信じられない」

震える声を押し殺しながら、紗良は席を立った。
外に出ると冷たい風が吹きつけ、涙を乾かす。
だが、凍りついた心までは溶かしてくれなかった。



夜。
邸宅に戻った怜司が「ただいま」と告げる声を聞いた瞬間、紗良の身体は反応した。
愛しいはずの声なのに、今は刃のように突き刺さる。

「……遅かったわね」
「すまない。会合が長引いて」

怜司はそう言って上着を脱ぎ、笑みを浮かべた。
その笑顔が、昼間に見たものと重なり、紗良の胸を締めつける。

「会合……?」
「そうだ。取引のために必要な話し合いだった」

嘘だ、と心の中で叫ぶ。
けれど、口にはできない。
代わりに、冷たい沈黙が二人の間に広がっていった。



信じていた初恋の人。
信じたかった夫。
だが――今日、目にしたあの光景は、すべてを裏切った。

紗良の心は、深い闇の中に沈み込み、ひび割れていくのだった。
< 5 / 30 >

この作品をシェア

pagetop