嘘つきなあなたに、もう一度恋をしますか?~冷たい仮面の下の真実~
第6章 冷たくなった心
朝食のテーブルに並ぶ皿は、いつもと変わらず彩り豊かだった。
焼き立てのクロワッサン、オムレツ、香り高いコーヒー。
だが、紗良の手はフォークを取ろうとせず、ただ視線を落としていた。
「紗良、口に合わないのか?」
正面に座る怜司が心配そうに問いかける。
「……いいえ。ただ、食欲がないだけ」
かつてなら、彼の声ひとつで胸が温かくなった。
けれど今は、その響きが遠く聞こえる。
怜司はしばらく黙って紗良を見つめ、それから溜め息をついた。
「このところ様子が変だ。何かあったのか?」
「……別に」
「嘘だな。僕に隠し事をする君じゃない」
――隠し事をしているのはどちら?
心の中で呟き、紗良は視線を逸らした。
日が沈んだころ、リビングで怜司が帰宅した。
「ただいま」
「……おかえりなさい」
声は冷たく、表情は硬い。
怜司は眉をひそめ、上着を脱ぎながら近づいた。
「やはり何かあったんだな。僕に話してくれ」
「話すことなんてないわ」
背を向ける紗良の腕を、怜司が掴んだ。
「紗良」
「放して」
怜司の瞳に驚きと戸惑いが宿る。
それでも彼は優しい声音で続けた。
「君が何を思っていようと、僕は――」
「信じられないの」
はっきりと告げた言葉が、二人の間に鋭い空気を走らせた。
怜司の手がわずかに緩む。
「……どういう意味だ」
「そのままの意味よ。あなたの言葉も、態度も……すべてが」
怜司は苦しげに眉を寄せた。
「君は誤解している。僕は――」
「誤解? それなら、どうして毎晩のように帰ってこないの?」
「仕事が山積みだからだ。何度も説明している」
「本当に?」
問い詰める声は震えていた。
目にした光景、玲奈の言葉が胸に蘇り、疑念は確信へと変わりつつある。
怜司はしばらく沈黙し、やがて低く呟いた。
「……僕を信じられないなら、それ以上何を言っても無駄なのかもしれない」
その夜、ベッドは冷たかった。
怜司は隣にいても、二人の間には見えない壁が築かれていた。
かつては触れ合うだけで温かかった心が、今は氷に閉ざされていく。
――信じたいのに、信じられない。
その矛盾が紗良の心を蝕み、彼女の瞳から光を奪っていった。