危険な隣人たち
第八章 傷つけられた想い
「私は、どちらも選べません」
その言葉が、ゆいの口から出た瞬間、空気が凍りついたような気がした。
竜也と飛鳥の視線が、まるで鋭い刃物のようにゆいを突き刺す。
竜也の瞳に見えるのは、怒りと驚き。
飛鳥の顔には、失望と痛みが浮かんでいた。
二人の間に広がる、言葉にできない空気が重たく、胸に圧し掛かる。
「どうして……?」
竜也がようやく口を開いた。
その声は、どこか震えているようにも感じられた。
「お前が選ぶべきだろ。もう、何年も一緒にいて、何も感じなかったのか?」
その問いに、ゆいは答えることができなかった。
自分が選んだ瞬間、どちらかが必ず傷つく。それが怖かった。
彼女は、二人のどちらも失いたくないと、心の奥底で感じていた。
「竜也、飛鳥……」
ゆいは、震える手を胸に当てながら、言葉を探した。
だが、二人の顔に浮かぶ表情は、どんどんと険しくなり、ゆいはその場に立ち尽くすしかなかった。
その時、道隆の言葉がゆいの頭をよぎった。
「お前が決めなければ、全てが崩れる」
その意味が、今更になって胸に響いてきた。
だが、もう遅い。
その瞬間に、選べなかったことの代償が、じわじわと心に染み込んできていた。