執拗に愛されて、愛して
 ようやく裏から雅が戻ってくると、いつもの真っ黒な制服に身を通した雅がカウンターに入っていった。それからすぐに手を洗いながら話しかけてくる。


「1杯目でいいの?言ってたやつ。」

「うん、お願い。度数優しめにしてね」

「酔いたいって言ってたくせに。」


 そう言いながら手際よく作り始める。このお酒を作っている姿は間違いなく格好いい。この姿で一体何人の女性客を虜にしてきたのか気になる。

 そんな雅の姿に見惚れていると玲くんに「酔いたいって嫌な事あったの?いつも良い感じの所で帰る夏帆ちゃんが酔いたいなんて珍しいよね」と声を掛けられ、苦笑いした。

 こんな所で話す様な話でもないし、この空気感を壊してしまうのではないかと話すかどうか躊躇ったが、玲くんにも雅にも誤魔化せる気がせず、溜息をこぼしてから口を開いた。


「午前中に母から連絡があったの。いつも通り、元気にしてるかどうかの確認と、お見合いの話だった。」

「お見合い?」

「そう。今は待ってって、先延ばしにしているけど、きっと次は強制的にお見合いの話受けさせられそうな感じがしてて…。それで気が重くなってストレス感じてた。」


 母の心配だという気持ちが伝わってくるからこそ、無視をすることもできない。
< 31 / 331 >

この作品をシェア

pagetop