君と越えるブルー
第18話
『次、いつ会えそう?』
『次の日曜日なら会えるよ』
『俺が日曜日、ダメかも。ごめん』
『じゃあ、また来週にしようか』
翌日。授業と授業の間にある短い休み時間を使って、鳴海とメッセージのやり取りをしていく。
お互いの気持ちを知ってから、初めてのデートになる。
関係を表すならば、想いが重なりあったのだから、『恋人』なのだろう。けれど、踏み込み切れないという部分も考えると、『両想い』という言葉が一番ピッタリな表現かもしれないと和は思っていた。
それでもお互いにとってお互いが特別な存在であることには変わりはない。今はまだ手を繋ぐことさえできなくても、ちゃんと心は傍にあることを鳴海は示してくれる。
だからこそ、和もその気持ちにちゃんと応えたいと思っていた。
放課後。その日、日直だった和は誰もいなくなった教室で、ひとり書き終えた日誌を閉じた。
ペンケースをスクールバッグの中に片付けて、日誌を抱いて教室を出る。下駄箱を通り過ぎて、廊下の突き当りにある職員室へと向かった。
「茅原先生。日誌持ってきました」
職員室の中ほどにあるデスクに座る担任に声をかけて、日誌を差し出す。先生はサイドテールに結った毛先を揺らしながら振り向くと、「ああ」と微笑んだ。
「笹原さん、ありがとう。気を付けて帰ってね」
「はい」
さようなら、と挨拶をして踵を返そうとしたときだ。
「T大学を受けるなら――」
ふと、別のデスクに座る先生のそんな声が耳に入る。
進路相談だろうか。
間もなく一学期も終わる。二学期に入れば、三年生は部活も引退し本格的に受験に向けて進んでいくことになる。
一年生の和には、まだそれはどこか遠くにあるもののように思えていたのだけれど、進路先について話す先生の前にいる生徒が環だと気付き、目を見開いた。
(T大学を受けるって言った……?)
T大学というと、今、和たちが住んでいる場所からではとても通えない場所にある大学だ。間にいくつも別の県が入るくらい遠い。
呆然とその背中を見つめていると、不意に環が振り向き。目が合った。
どうやらいつの間にか先生との話が終わっていたらしい。
「あれ、なごちゃん」
やっほー、と和に手を振る彼女はいつも通り、可愛らしく笑った。
一緒に職員室を出た環に、和は「あの……」と躊躇いながら声を掛けた。
「環さん、T大学目指しているんですか?」
「え? ああ、先生との話、聞こえてた?」
恥ずかしいなぁ、と環はハニかみ、頷いた。
「模試の判定はあんまり良くないんだけどね。でも、チャレンジしてみようかなって」
「……もし、受かったら、家は……」
「学生寮があるの、T大。だから、そこに入ることになるかな」
家からじゃとても通えないし。寮ってどんな感じなんだろうねぇ、と他愛ない話のように言う環の声が、遠くなるような気がした。
――……環さんが、いなくなる?
そんなこと、想像もしていなかった。
胸がどくん、どくん、と大きく拍動する。ざわざわと心がうるさい。
広がる不安に足元を絡めとられるように、和の足は止まってしまった。
「なごちゃん?」
数歩先まで進んでいた環が、急に立ち止まった和を不思議そうに振り向いた。
「いえ、なんでもないです」
和は小さく首を横に振って、いつも通りを装う笑顔を作った。
――大地は、このことを知っているのだろうか
ブザーを首からぶら下げている青いストラップを、和はぎゅっと握り締めた。
『次の日曜日なら会えるよ』
『俺が日曜日、ダメかも。ごめん』
『じゃあ、また来週にしようか』
翌日。授業と授業の間にある短い休み時間を使って、鳴海とメッセージのやり取りをしていく。
お互いの気持ちを知ってから、初めてのデートになる。
関係を表すならば、想いが重なりあったのだから、『恋人』なのだろう。けれど、踏み込み切れないという部分も考えると、『両想い』という言葉が一番ピッタリな表現かもしれないと和は思っていた。
それでもお互いにとってお互いが特別な存在であることには変わりはない。今はまだ手を繋ぐことさえできなくても、ちゃんと心は傍にあることを鳴海は示してくれる。
だからこそ、和もその気持ちにちゃんと応えたいと思っていた。
放課後。その日、日直だった和は誰もいなくなった教室で、ひとり書き終えた日誌を閉じた。
ペンケースをスクールバッグの中に片付けて、日誌を抱いて教室を出る。下駄箱を通り過ぎて、廊下の突き当りにある職員室へと向かった。
「茅原先生。日誌持ってきました」
職員室の中ほどにあるデスクに座る担任に声をかけて、日誌を差し出す。先生はサイドテールに結った毛先を揺らしながら振り向くと、「ああ」と微笑んだ。
「笹原さん、ありがとう。気を付けて帰ってね」
「はい」
さようなら、と挨拶をして踵を返そうとしたときだ。
「T大学を受けるなら――」
ふと、別のデスクに座る先生のそんな声が耳に入る。
進路相談だろうか。
間もなく一学期も終わる。二学期に入れば、三年生は部活も引退し本格的に受験に向けて進んでいくことになる。
一年生の和には、まだそれはどこか遠くにあるもののように思えていたのだけれど、進路先について話す先生の前にいる生徒が環だと気付き、目を見開いた。
(T大学を受けるって言った……?)
T大学というと、今、和たちが住んでいる場所からではとても通えない場所にある大学だ。間にいくつも別の県が入るくらい遠い。
呆然とその背中を見つめていると、不意に環が振り向き。目が合った。
どうやらいつの間にか先生との話が終わっていたらしい。
「あれ、なごちゃん」
やっほー、と和に手を振る彼女はいつも通り、可愛らしく笑った。
一緒に職員室を出た環に、和は「あの……」と躊躇いながら声を掛けた。
「環さん、T大学目指しているんですか?」
「え? ああ、先生との話、聞こえてた?」
恥ずかしいなぁ、と環はハニかみ、頷いた。
「模試の判定はあんまり良くないんだけどね。でも、チャレンジしてみようかなって」
「……もし、受かったら、家は……」
「学生寮があるの、T大。だから、そこに入ることになるかな」
家からじゃとても通えないし。寮ってどんな感じなんだろうねぇ、と他愛ない話のように言う環の声が、遠くなるような気がした。
――……環さんが、いなくなる?
そんなこと、想像もしていなかった。
胸がどくん、どくん、と大きく拍動する。ざわざわと心がうるさい。
広がる不安に足元を絡めとられるように、和の足は止まってしまった。
「なごちゃん?」
数歩先まで進んでいた環が、急に立ち止まった和を不思議そうに振り向いた。
「いえ、なんでもないです」
和は小さく首を横に振って、いつも通りを装う笑顔を作った。
――大地は、このことを知っているのだろうか
ブザーを首からぶら下げている青いストラップを、和はぎゅっと握り締めた。
