戻れなかった時間の先で

第2話  好きだった人の事

 私には好きな人がいた。

 背が高くてスリムで、くせ毛でふんわりとした髪は額にかかるほど長くて、ふんわりとした感じで‥‥

 今でもはっきりと思い浮かべる事が出来る。

 どんなとこが好きだったのか、そんな理由なんてどうでもいいぐらい、彼が好きだった。

 卒業式の日、私は思い切って告白して‥‥彼は驚いていたみたいだけど、静かに首を縦に振ってくれた。

 彼は東京に就職が決まってて、私は田舎‥‥だから遠距離恋愛になった。

 週に一回ぐらいしか会えなかったけど‥‥あの頃は幸せだった。

 彼とはこのまま付き合って、いつかどっちかがプロポーズして、そして結婚するものだと思ってた。そう信じて疑わなかった。

 あの日までは‥‥。

 喧嘩の原因は、ほんの些細な事だった。

 今から考えると、ほんとどうでもいい、取るに足らない事で、あの時の私は、なぜそんなに彼に怒ってしまったんだろうと思う。

 私の誕生日にこっちに戻ってきてくれるはずだったのが、仕事の都合でどうしても行けなくなったって言われて、

 私は不満をぶつけた。

 彼は、『ゴメン‥‥』って言うだけで、他には何も答えない。スマホ越しに私が一人で話してるみたいで‥‥

 それが私は気に入らなかった。

 『私の事なんて、何とも思ってないんでしょ』

 言ってはいけなかったその言葉を私は口にしてしまった。

 私のその言葉を聞いても、彼は怒らなかった。ただ黙ったまま。

 いつも言葉足らずな彼‥‥そんな事ないよって、嘘でもいい。私を安心させてほしかった。

 嘘でも‥‥私はその言葉を信じるから。
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