戻れなかった時間の先で

第7話  あなたを忘れるなんてできない

 「だって!!」
 
 思わず大声を出してしまった。

 雨音を通して響いた声が、何人かのサラリーマンを振り向かせてしまった。

 「だって‥‥今でもあなたの事が好きなの! それを忘れろだなんて!」

 また大声をあげてしまった。感情的になってまた彼にそれをぶつけてしまう。

 でも‥‥止められない。

 「‥‥僕も‥‥同じだ‥‥」

 彼は黙って私を抱きしめた。彼のやさしさを全身で感じて、私は目を閉じる。

 「‥‥‥‥」

 それが急になくなって目を開いたとき、彼は私から離れて立っていた。

 「‥‥‥ごめん」

 彼はポケットに両手を入れて、ひさしから出て雨の中を歩いて行った。

 「ま、待って!」

 追いかけようとしたその瞬間、目の前を車が横ぎった。水たまりからしぶきが上がって、私は目を閉じて腕で顔を隠す。

 「‥‥‥‥」

 ほんの数秒の間に、彼の姿はそこからなくなっていた。

 ただ静かに降り続ける雨だけが、彼のいなくなった景色の中に広がっている。
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