野いちご源氏物語 四〇 幻(まぼろし)
十二月。
<年が明けたら出家(しゅっけ)しよう>と決めていらっしゃるから、見るもの聞くものひとつひとつが、これが最後だとお胸に()みる。
ご出家の前になさっておくべきことがいくつかあるなかで、形見(かたみ)分けをお始めになった。
お仕えしている家来や女房(にょうぼう)に、身分にあわせて物をお配りになる。
いかにもこれでお別れという雰囲気にはなさらないけれど、受け取る人たちは分かっている。
どの人も年が暮れていくのが心細くて、これ以上なく悲しんでいる。
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