推しが隣に引っ越してきまして 〜月の裏がわ〜


その場にいるスタッフが、全員佑月さんを見ていた。
中には1話の佑月さんの演技を知っている人もいて、佑月さんの演技力の成長っぷりに感動する人すらいた。

成長というか、本心で喋ってるだけなんですけどね、彼は。

今、僕たちが見ているのは、颯を演じる佑月さんじゃない。佑月さん自身だ。そしてその目に映っているのは、河瀬蘭ではなく宮部凛だ。

あの言葉は、表情は、宮部凛に向けられているものだ。

「俺は、凛のことが_」
「あ。」俺と亮さんは同時に声を漏らした。

言った。言っちゃったよ今、完全に凛って言った。駄目だもう佑月さんの頭の中は宮部凛でいっぱいだ。勘弁してくれ。

佑月さんがア。って顔をする。

「カットー!」監督から声がかかる。

隣にいた亮ちゃんがブー!って吹き出す。

「最後の最後で主人公の名前間違える!?!」

監督が持ってた脚本を丸めて、机を叩きながら笑う。
「人がたくさん見てるんで緊張しちゃいました〜!」
佑月さんが笑う。

一番緊張したのは俺ですよ……もう……。

隣の亮さんは、ククク……って肩を震わせている。


俺は、一刻でも早くこの人の家を引き払いたい。




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