推しが隣に引っ越してきまして 〜月の裏がわ〜
「お疲れ様です。」黒田が引き攣った顔で亮さんに挨拶する。
亮さんが笑って、黒田のほっぺをムニってつまんだ。
「ごめん、全部聞こえてた。」
あははって亮さんが笑う。
「すみません……。」
黒田が頬をつままれたまま固まる。
「ええねん。」
亮さんが黒田の頬から手を離す。そして、頭を下げた。
「引き受けてくれてありがとう。」
「え……。」
「直前になってもうてごめんな」
呆気に取られていたのは、黒田だけじゃない。
俺は、数分前の自分を恥じた。
そして、その背中に、この人がこの世界を生き抜いてきた所以を見た。この人がグループのリーダーで本当に良かった。