明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
 将吾の否定的な言葉に、玲子の表情が曇りかけた。そのとき、尚文が明るい声を上げる。

「じゃあ、僕が一緒に行こうか?」

「え?」

 玲子が驚いて尚文を見ると、彼はウインクすらしそうな勢いで笑う。

「護衛には自信あるし、いい羽織紐を選ぶ目もある。玲子君の“はじめての外出”にふさわしい案内人だろ?」

「……ありがとうございます」

 玲子が微笑み、ふたりの間にふんわりとした空気が流れた。
 それを見ていた将吾は、無意識のうちに腕を組み、視線を逸らす。

「まったく……。尚文のやつ……」

 呟きは小さく、ふたりには届かない。
 けれど、自分でも気づかぬうちに額に皺が寄っていた。

「まあ……尚文が一緒なら安心だな。目立たぬように、気をつけて行け」

「はい、将吾様。ありがとうございます」

 玲子の嬉しそうな笑顔に、将吾はなんとも言えない気持ちになった。

 (今のこの気持ちは、なんだ?)

 将吾の胸の奥が、もやもやと熱を帯びている。
 尚文が玲子に寄り添って微笑む姿が、妙に気に障るのは、きっと気のせいではないのだろう。
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