明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
「くそっ……もっと早く気づいていれば……!」

 尚文が悔しげに吐き出すと、将吾も眉をひそめた。

「今は責め合っている場合じゃない。玲子殿を救い出す、それだけだ」

 ほどなくして、少年が立ち止まった。

「ここ……この奥の路地の先。あの家の中に入っていったよ」

 将吾は小さくうなずき、軍帽を深く被り直した。

「よくやった。危ないといけないから、もう下がっていてくれ」

 少年が頷き、駆け去っていく。
 廃屋の前まで来ると、確かに中から、かすかな話し声が聞こえてきた。女性のものではない、男の声だ。

 尚文が顔をしかめてささやく。

「……玲子君を連れ去ったならず者と、仲間が合流している可能性があるかもしれない。様子を見よう」

 将吾は頷くと、背中の軍刀に手をかけ、そっと足を忍ばせ建物に近づいた。
 建付けの悪くなった雨戸の隙間から、中を覗き込む。
 ならず者らしき男が、部屋の中をうろついているのが見える。
 そして、床の上には拘束されている女性が……。

「玲子殿」

 その刹那……。
 くぐもった叫び声が響いた。

「イヤ……来ないで!」

「ヤダね。男爵令嬢を手籠めにする機会なんざ。この先、一生無いだろうからな」

「やめてっ……離して……!」

 頷き合った将吾と尚文は、慎重に廃屋の扉へと手をかける。

「油断はするな。乗り込むぞ」
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