明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
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翌日。
朝の庭に、薄紅のつつじが揺れていた。だが、玲子はそれをも目に入らない様子で足早に進む。
藤堂家の一角にある普段は使用されていない旧書庫の棚までたどり着くと、棚を見上げた。
(将吾様の叔父……輝明様が薬草に関心があったというなら、実家であるこの家に何か、記録が残っているかもしれない)
玲子は黙々と棚を見上げていた。
書庫の空気は乾いてひんやりとしており、陽の届かない奥の方には、黄ばんだ本や巻物が雑然と詰め込まれている。
ふと、一冊の背表紙が目を引いた。
《生薬と毒草の性質──応用と制毒法》
「……これ」
取り出した瞬間、舞い上がる埃に咳き込みながら、玲子は本を開いた。手書きの書き込みが随所にある。誰かが真剣に、読み込み、研究していた跡。
そして、最後の数ページを捲ったとき、紙の余白に小さな走り書きが目に入った。
《ジキタリス》
玲子は眉をひそめた。
(ジキタリス?花の名前よね~……。それより、この文字……どこかで見たような)
その瞬間、思い当たるものがあった。
昨日、見つけた半紙の走り書きと同じ筆跡だ。
《夜用の麻黄、念のため分量を倍に》
丁寧ながらも癖のある、角ばった字の運び。縦線の起筆にわずかな右傾きがある特徴的な筆跡。
玲子は急いで部屋に戻り、昨日見つけた半紙の走り書きと、今日見つけた紙の余白に書かれた文字とを照らし合わせる。
(……やっぱり)
走り書きされた文字と、今日見つけた文字は、細部まで一致していた。
(この筆跡……おそらく、輝明様のもの……)
玲子の背に、冷たい汗が伝った。これは偶然の記録ではない。明らかに、一将を対象に、意図的に薬草の調整を加えていた証拠。
言いようのない苦い思いが、玲子の中で静かに膨らみつつあった。