明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
「でも……怖いんです。一将様。誰かを疑って、それが間違いだったら……」

『間違っていたなら、それでよい。だが、もし正しかったなら? 黙っていたことで、将吾や尚文に……何か起きたらどうする?』

 その言葉に、玲子はハッと息を飲み、目を見開いた。

 将吾のことはもちろん、尚文のことも……どこか軽やかで、おどけて見せながら、いつも誰かを気遣っているあの優しさを思い出す。
 自分が知ったこの疑念を見て見ぬふりをしたなら……。
 それが、彼らふたりを危険に晒す可能性があるのではないだろうか。

(わたくしだけが知っていて、何も言わなかったせいで、もし……舞踏会会場で起きたようなことが再び起きたら……)

 思考の底に沈んでいた恐怖が、輪郭を持って浮かび上がる。

「将吾様も、尚文様も……危険な目に遭わせたくありません。」

 玲子は小さく、だがはっきりと声に出した。

 その声音に、一将の目が細められる。
 彼は、にやりと笑って腕を組んだ。

『うむ。それでこそ、我が孫たちにふさわしい“守り人”じゃ』

 ふと吹いた風が、庭の枝を揺らし、白い花びらがふわりと舞った。
 玲子の胸にのしかかっていた氷のような重さは、ほんの少しだけ、初夏の陽射しに溶けていった気がした。
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