明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
『……よう言ったの、玲子殿』
その声は、玲子にだけ届く。
『そなたが、ここまで辿り着いたこと。……拙者は、感謝申す』
玲子はかすかに頷いた。だが隣に座る将吾は、彼女がどんな問いかけに応えたのかは分からず、小さく首をかしげる。
「玲子殿……大丈夫か? もしや、お祖父様が来て居るのか?」
「はい、わたくしを心配してくださいました。一将様は、いつも背中を押してくださいます」
微笑む玲子に、将吾はじっと視線を向けたまま、小さく息を吐く。
「……玲子殿は、本当に強くなったな」
「いえ、まだ途中です。でも……もう、守られてばかりではいけないと思いました」
玲子の声に、一将は大きくうなずく。
『そなたは、ただの娘ではない。藤堂の未来を共に築く者だ。それを、忘れるでないぞ』
将吾は窓の外へ視線を向けながら、小さく呟いた。
「……これで、道筋は見えた気がする。だが、ここからが正念場だ。……俺たちの覚悟が試される」
「はい」
玲子はまっすぐ将吾を見つめて答えた。
馬車の車輪が石畳を転がる音が、ふたりの会話の合間を埋めていた。