明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
尚文の真摯な声に、広間は一瞬ざわめきに包まれた。
 だが、輝明は表情ひとつ崩さず、悠然と扇を広げて口元にあてた。

「……甥よ。情の篤さは誉れであろう。だが、人の覚悟とやらが、藤堂の未来を支える糧になるかね? 家格を欠いた娘を迎え入れることで、世間から嘲られるのは、我ら一門すべてではないか」

 ゆるやかに言葉を紡ぐ声が、広間を落ち着かせ、分家筋の男たちが「もっともだ」と頷き合う。

「ましてや、彼女は榊原家にあってすら蔑まれてきた身。……そのような者を花嫁に据えることが、果たして藤堂の名を高めることになるのか。我が甥よ、君は軽々しく口にすべきではないぞ」

 穏やかな声音に包まれながらも、その実、尚文の言葉を無力化する鋭さがあった。
 尚文は言い返そうとして唇を動かしたが、分家の者たちの視線が一斉に輝明の側へ傾き、言葉が喉に詰まった。

 その様子を見て、輝明はわずかに目を細める。

「ワシはただ、藤堂のためを思っておるのだ。これが一族を思う者の責任というものだよ」

 玲子の背筋を冷たいものが走った。
 言葉巧みに場を支配するその姿に、彼女は卓の下で握られた将吾の手の力を強く感じ取る。
 将吾は一言も発しなかったが、その眼差しは烈火のように輝明を射抜いていた。
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