明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
将吾は 記憶の糸をたどるが、いくら考えても全く心当たりがなかった。
給仕によって、グラスの破片が片付け終わり、再び会場に音楽が流れ出した。すると、何事もなかったように、紳士淑女が手を取り合い円舞曲を踊り始める。
華やかなダンスが繰り広げられる横で、佇んだままの将吾は、彼女の瞳を思い出していた。
心の奥まで映すような黒い瞳が、気になって仕方ないのだ。
そして、将吾は彼女の後を追うように会場の出口へと向かう。
途中、視界に入った花瓶には、真っ白なシャクヤクが、幾重にも花びらを重ね優美に咲き誇っていた。
グラスが飛んだ先に、飾られていた花瓶。それに将吾の視線が止まる。
白いはずのシャクヤクの花弁の一部が、葡萄酒が掛かったのか、茶色く変色していた。
いや、葡萄酒で色が変わったなら、赤紫になっているはずだ。
茶色に変色しているという事は、あのグラスに何か良からぬ物……例えば、毒物が混入されていたのかも知れない。
「彼女は何か知っていたのではないだろうか?」
将吾は、小さくつぶやき玲子の姿を探し始めた。